391文字の世界「繰り返すこと、2584回」


魔王に生け贄として選ばれた生娘が、首を縦に振らなかった。

それが人類の初めての抵抗であり、聖戦の始まりであるとされている。

人類と魔王の戦いは苛烈を極め、未だ終わりは見えない。

老騎士が廃村に一人残っているのも、魔王の進行を食い止めるために他ならなかった。


「だいぶくたびれているな」

声の主を知っている騎士は、背中の声に振り向きもしない。

「おかげでさまでな、魔王」

「いい加減諦めたらどうだ」

「50年前から言ってることが変わらないぞ、お主。少しは進歩せい」

「お前は、だいぶ変わったな」

「この皺のことか? 言っておくがこれはお前に刻まれた傷だ。全く、嫁入り前の身になんてことしてくれる、魔王」

「貰い手ならあるだろう…………いい加減諦めて、我に与せよ生娘」


老騎士こと生娘は、首を横に振った。


「あんたがその言い方を直して、素直に惚れたって言うまでは嫁に行かない。50年前からずっと言ってるじゃないか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る