第47話 裁きの雷
まったく疲れた様子も見せずに自分へと剣を向ける琉斗の姿に、エメイザーの声が上ずる。
「つ、強がるなよ!? あれほど長い間破滅級魔法を展開していたのだ! 魔力が続くはずがない!」
「それはお前を基準に考えた場合の話だろう。上には上がいるということを想定しておくべきだったな」
琉斗は笑みを浮かべながら言う。
「お前は終始有利に事を運んでいたつもりだったのだろうが、それはまったくの事実誤認だ。お前との戦いが始まってから今の今まで、こちら側に被害が出る場面など一切なかった」
当然だ。全ての観客と冒険者は琉斗の魔法障壁によって完璧に守られていたのだから。
「俺には二つの目的があったんだよ」
「も、目的だと!?」
「ああ。一つは魔物の大物らしいお前の力がどの程度のものか知ること。つまり、俺はそれを調べるためにこうして障壁を張って、お前の攻撃力や使用魔法、魔力の容量などを計っていたというわけさ」
「な、何だと……?」
「おかげでいろいろとわかったよ。お前、八極将魔とかいう連中の一人なんだろう? その八極将魔がおおむねお前くらいの強さだということがわかった。今後はそれを織り込んで行動することができる」
「な、なめやがって……!」
呻くエメイザーだったが、その言葉には力がない。
「俺にとどめを刺しにきたが、ちょうどあのあたりが俺の限界だと思ったんだろう? そしてそれは、おそらくお前の魔力容量の限界に近いものだったはずだ。仮にも相手はお前が言うところの禁呪使いだ。十分に魔力を削ろうとするはずだし、かと言って人間ごときが自分より遥かに魔力容量が大きいとは思わないだろうからな」
「ぐっ……」
図星だったのか、エメイザーが低く呻く。
「もう一つは、単純にお前の注意を俺に引き付けるためだ。気付いていたか? お前が俺の相手に夢中になっている間に、お前のお仲間はもういなくなっていることに」
「はっ!?」
エメイザーが周りを見回すと、彼を取り囲むような形で集まっていたはずの魔物たちは影も形もなくなっていた。下へと視線を動かせば、黒焦げになったりずたずたに切り裂かれた魔物の死骸があちこちに転がっている。
「別に俺が障壁で守っているし、放っておいてもそんなに変わらないんだけどな。でも、万が一ということもある。念のため他のみんなに掃除をしてもらった」
「お、おのれ……」
もはやエメイザーの表情には余裕の欠片もなかった。身体を震わせて琉斗を睨みつけながらも、その目には怯えと恐怖が宿っている。
「ちょ、調子に乗るな人間! 苦し紛れのはったりに決まっている! 我が最強魔法で葬り去ってくれるわ!」
そう叫ぶと、前方へと突き出したエメイザーの両手に、これまでにないほど激しい炎が集まっていく。
「覚悟しろ、小僧! これが魔王軍全軍でも片手ほども使い手がいない、烈級魔法の最高峰だ! この私の最強不敗の魔法、食らうがいい!」
雄叫びと共に、その手から荒れ狂う炎が琉斗へと向けて放射された。凄まじい勢いで琉斗を飲み込むと、炎はそのまま彼を焼き尽そうと暴れ続ける。
だが、その炎が突如弾け飛ぶ。その中からは、平然と左手で障壁を張る琉斗の姿が現れた。
「ば、馬鹿な……」
わなわなと震えるエメイザーに、琉斗は静かに問うた。
「今のが、お前の全力と言うわけか」
「あ、う……」
「それでは、次はこちらからいくぞ」
それから、思い出したように言った。
「ああ、そうそう」
そう言って、剣を両手で握り直す。
「実は、あの魔法障壁は右手に関係なく維持できるんだ。もっとも、それができるようになったのはお前の攻撃を防ぎ続けている最中だったんだけどな」
構えた琉斗の剣に、魔力の光が集まっていく。それは雷の形を取り、琉斗の剣が帯電したかのように音を鳴らす。
「せっかくだ、お前には攻撃用の上位破滅級魔法を見せてやろう。雷光系の魔法だから、おそらく回避は不可能だぞ」
「ひっ、ひい!」
恐れをなしたエメイザーは、琉斗に背を向けるや空高く浮上する。
その背中へ、琉斗は剣を突きつけた。
剣先から放たれた稲妻は、瞬く間に逃げるエメイザーの背中を貫く。
直後、彼の身体を雷が包み込み、その身体を灼いた。
「ぎゃあああぁぁぁあああぁ!」
断末魔の悲鳴も束の間、すぐに声は途切れ、黒焦げになったエメイザーの身体が落下してくる。
さほど間を置かずに、エメイザーの巨体は地面と激突し轟音が鳴り響く。砂煙の中から現れたエメイザーの身体はすでに何とか人型を保っているといった状態まで焼かれ、四肢は妙な方向にねじ曲がっていた。
しばらくの間闘技場は静寂に包まれていたが、やがて今日一番の大歓声が湧き上がる。
こうして琉斗は、魔王軍最強の将の一角を撃破したのだった。
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