6-本当に僕の身体?


このころから少しだけ、お腹がでてきた。自分が少しだけわかる程度。

でも、その姿を鏡でみるのはものすごく複雑だし不思議だった。もちろん、今でも鏡でふと自分の体をみれば嫌悪感をもつことはある。そのときも同じだった。嫌悪感があったり、僕の体の中にもう一人いることを目で確認することで、なんともいえない気持ちだった。僕の体におこるはずがない変化がおきていて、不思議で。でも、僕の中に僕はいるから、体が女になっていく過程に嫌悪感をもっていた。それから、日に日に大きくなっていくお腹に嬉しい気持ちがほとんどだけど、女としてみられている複雑な気持ちは消えなかった。検診でこの子に会えるのはとても嬉しかったけど、その中で内診などには耐えきれない気持ちでいっぱいだった。さすがにそこまで想像はしていなかったから、予想外の出来事で辛かったけど、きっと僕が選んだ道はこういうことなんだと納得するしかなかった。


ちなみ、気になっている人もいるかもしれないが、僕たちの籍はどうなっているかということなんだけど、正式には入っていない。母から許しをもらってから、わかった事実がある。彼は自己破産していて、とてもお金にルーズな人だということ。これには僕もびっくりした。それまで一緒にいるときは、一度も僕にお金をださせるようなことはしなかったから、余計に。余裕があるものだとずっと思っていた。だから、弁護士やいろいろなところに相談した結果、その破産期間が終わってからか僕が仕事するようになるまでは籍はいれないことにした。お腹の子を思っての決断だった。また、普通じゃないことが起きたけど、母は納得というか仕方ないと承諾してくれた。


そして、ずっと反対されていたから、出産前後は自宅で過ごす予定だったけど、母と理解しあえたから、一ヶ月前になったら、実家に帰省することにした。あの時が嘘かのように、多くのことに協力してくれて、多くのことを教えてくれた。子どもの顔なんか見たくもないと言っていたから、母のその対応が嬉しかった。弟や妹も母の反応が変わってからは、生まれてくるのをものすごく楽しみにしてくれていた。うちの家族はこの子に救われたのかもしれない。


そして12月。僕は実家に帰った。ちょうどその頃、祖母の体調がよくなかった。それに、認知症になっていた。僕は初孫で特にかわいがってもらった。だから、僕は祖母にいつかなにかお返しをしたいと思っていた。最初はどこか旅行に連れていってあげようとか思っていたけど、だんだん考えが変わっていき、できればひ孫をみせてあげたいと思うようになっていた。そして、この子ができてその夢も叶おうとしていた。最初は僕がなぜ実家にいるのかも忘れてしまうくらいだったけど、ある時から、予定日まで覚えてくれるようになって、体を大事にするようにと労わってくれるようになった。


12月は実家にいたこともあって、母とたくさん出かけた。母なりの気遣いだった。生まれたら全然どこにも行けなくなるからと、その前に行けるところには行っておこうと、いろんなところに出かけた。

ある日、母がおすすめのカフェがあるからと、行くことにした。こじんまりとしたカフェで静かないい雰囲気のカフェだった。いつ予定日なんですか?なんで他愛もない話をしていた。それから、何回か行くようになり、ここのオーナーさんとは今では、悩みごとを相談できるような仲になった。それから聞いたことだが、僕が初めてお邪魔したとき、「男の子かー。ん?お腹が大きい!どういうこと?え?男の子だよね?」と第一印象で思ったらしい(笑)

あとから、カミングアウトはしたけど、そこまでなっても僕の雰囲気は男だということに嬉しさでいっぱいだった。


そして、年末を迎えて怒涛の2015年を終えた。年が明けて2016年。僕にとって大きな1年が始まった。だんだん予定日が近づいてはいたけど、なんの気配もなかった。毎日、そろそろいいんじゃない?と話しかけていた。そんな光景も自分からしたなんとも不思議で、さすがにこのころには妊婦体型だったし、複雑と不思議が直前になっても混同していた。

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