羅睺
私は逃げるリーガルを追う。奴は怪我をヴィオレッタに移すつもりだ。彼女は気絶しているだけなので、ゾンビとは違う。
私はナイフを投げた。
だがリーガルに感づかれ、ナイフは身を
しかし、ナイフはヴィオレッタの所まで飛んでいくと空中で静止し、再びリーガルの方向へ向かって行った。
「なに!?」
ナイフはリーガルの足に刺さり、リーガルは派手にこけた。
寸でのところでヴィオレッタが意識を取り戻したのだ。
「ヴィオレッタ、お前っ!」
「残念、最後に女運に恵まれなかったようだ。まぁ、今までのツケといった方がいいかね」
私が追い付く。リーガルは尻もちをついたまま、「来るなっ、来るなぁっ」と地面の雪をつかんで必死の形相で投げ始めた。十人女が集まれば、一人くらいは憐れんで私を引き留めそうなほど惨めな有様だった。
「ひぃっ、ひぃぃっ」
「おいおい、そんな子供じみたことをするくらいなら、命乞いをした方がましじゃないか」
最初は雪の塊を避けていたが、そのうち、リーガルのそのあまりにも哀れな様に
だがそれが、奴の最後の手品だった。
「っ!?」
雪の塊のはずが、私の顔をついたのは熱湯のような熱さだった。視界が塞がれた。
「は、ははっ。油断したなっ。冷気を熱に反転させたんだ」
「……てめぇ」私は顔を抑えて言った。
「俺をここまで追い詰めるとは流石だ。さすがは転生者の落とし子だ、楽しませてもらったぞ」
リーガルが胡蝶刀を振り回して近づいてくる。私は聴覚に全神経を集中させる。
大げさに空気を斬る音がする。私は音を頼りに、リーガルの連撃を後ろに下がりながら紙一重でかわし続ける。
「どうしたぁ? 後がないぞぉ?」
後ろからはゾンビが近づいてくる音がする。私の視界は少し回復しつつあったが、それでもかなりぼやけていた。
私は刀を突き出す。リーガルはそれを大ぶりで叩き落しつつ、その勢いで背面から回転式の肘打ちを繰り出した。肘打ちは私の側頭部にヒットする。
「あぐぅっ」
私はのけ反り、さらにリーガルの前蹴りを喰らって雪原に倒れた。刀は手を離れ、私の目の前の地面に突き刺さった。
「死ねっ!」
迫り来るリーガル。起き上がって刀を取るのは間に合わない。
私は水面蹴り(体を伏せた状態で放つ後ろ回し蹴り。かかとやふくらはぎで相手の足をすくう)で、刀の刃を蹴った。
刀は回転して宙に浮いた。
私は手元に来た
立ち上がりざまに切り上げの一閃。
刃は胡蝶刀を振り下ろそうとしていたリーガルの右手首を切り裂いた。
リーガルの連撃が止まった。
──機
私は肩甲骨の間と股関節にそれぞれ球体を意識して袈裟で切りかかる。
「ぬぅ!」
リーガルが胡蝶刀を交差させて防御する。
刀は、弦楽器を乱暴に弾いたような甲高い音をたて胡蝶刀を切り裂き、リーガルの肩口に深々と斬り込み、そして刃は肺の上まで達した。
“陰陽流 陽之太刀 陰陽ノ奥意 ─
「がぶぅ!」
リーガルは口から血を吹いて膝をついた。
私は刀を突き出しながら後ろに下がると、刀を振り、血を袖でぬぐって納刀した。
「あ……く……。」
リーガルは相変わらずの濃い緑色の瞳で私を見ると、震える手で肩を抑えた。
「お前は……。」
「……何だ?」
「お前……は、あの所長……に、個人的な……恨みで、命を狙われていたと思って……いるのか」
「……どういう意味だ?」
リーガルは何かを言いたそうにしていたが、ただ薄気味の悪い、勝ち誇った笑いを浮かべると、うつぶせに音をたてて倒れた。
「……終わった……みたいだな」
私の後ろにはロッキードが立っていた。満身創痍だったが、それでもこの体を地面に縫い付けることはできないらしい。
「ロッキード……。」
「戦いと……呼べるものではなかったな」
「そうだね……。」
私はリーガルを見た。放っておいても、このまま絶命する深手だ。仮にここからどうにかできる力があるなら、あそこまでは焦っていないだろう。
ロッキードは唸りながらため息をもらすと、踵を返して歩き始めた。コルトの方角だった。
「お、おいっ」
空からは大粒の雪が降り始めていた。
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