第2065話:ミビシ・ユウロ〜其一〜

「其一はないのですか?」

「ん?」

 後輩がこの世界にやってきたので、この世界で生きるための心得というものを説明していたのだが、心得其一を言わずに其二を説明してしまった。

 これはよくない、先輩としての威厳が保てない。

「えーとだな、この世界では常識的なものなど何一つなく曖昧であるからして、心得がまず其一から始まるという固定観念すら邪魔になるというのがその、だな、其一だ」

 かなり苦しい言い訳になってしまったような気がする。

 そもそもの話この心得というもの自体が先輩風吹かせるためのでっち上げなのだから他の人に聞かれでもしたらバレる。

「先輩……」

 怪しまれたか?

「流石です! 勉強になります!」

 よかった、バレてはいないようだ。

 考えてみれば我ながらいい言い訳だったかもしれない。

 この世界では常識に囚われてはいけない、うん、とっさに出たにしてはいいかもしれない。

 その後、なんとか其七まででっち上げて先輩の威厳を保つことができた。


 後日、色んな所で俺が話した心得に近いものを聞くことが多くなった。

 もしかしてあいつ、色んな所で話して回ってるんじゃあないだろうか。

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