第1583話:フッティ・アフト~左右~
「君、右利きなんだね」
飯を食べていたら話しかけられた。
確か、近所に住んでるっぽいやつだ。何度か散歩のときに見かけたことがある。
俺は顔を知っているが、向こうが俺の顔を知っているかと言われると確証はない。俺が何となく覚えてるぐらいには見かけているのだから、向こうも俺の顔を何となく知っていてもおかしくはないのだが、面識があるかと言われたら無いようなものだろう。
「右利きだが、変か?」
右利き、珍しくとも何ともないと思うのだが……
「いえいえ、別に何も変ではありませんよ。この世の半分の人は右利きだと言われるぐらいですし」
半分だったかな? もっと極端な偏りだった気がするが……
「左側いいですか?」
まぁ断る理由もないし、承諾する。
「私は左利きでしてね」
「はぁ、そうですか」
珍しいなと思いつつ、そういえば他人の利き手なんてものは全然気にしたことはなかったと思う。
さっき言っていたように半分は右利きで、残り半分は左利きというならば存外左効きの人を見かけているんじゃないだろうか。
いろんな世界の人が集まってるってことだし、利き手に関する認識の違いとかがあるのかもしれないな。
右利きと左利きの人がそろっていると、何かいいことがあるみたいな、そういうの。
聞いてみる。
「あ、えーとですね、そのぉ……」
ずいぶんと口ごもるな。
「そうです、ね。両方そろって、左右で並んでいると……都合がいいというか、そういう感じなんですよ……!」
何か妙な物言いだ。
「すみません、実はうちの世界では利き腕が同じだと結婚できなくて、右利きの人を見ると、どうしても気になっちゃって、左に座っちゃうんです……」
なるほどな。
そういう習性になってしまっているんだな……
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