第1362話:カキバタ・ウツロ~消えたあの人~

 公園を走り回る子供たちを見てふと思い出したことがある。

 昔、私には一人の友人がいたのだ。

 いた、いたはずだ。

 何か確証がない感じになってしまったのは本当に確証が無いからだ。

 彼だったか彼女だったかを覚えているのが私だけで、私自身もはっきりとした記憶はない。

 男の子だったか、女の子だったか、それは意識してなかったから覚えていないだけだったかもしれないが、それすらも記憶には残っていない。

 顔や声は朧気ながらに覚えていて、会えばわかるはず。

 そのいたはずの友人なのだが、ある日突然消えてしまった。

 毎日一緒に遊んでいて、みんなともとても仲が良かったはずなんだけど、消えた翌日からは誰も彼の話題を出さなくなって、私が「あの子がどこに行ったか知ってる?」と聞いても「誰の話?」と返されるという状態になった。

 子供のころの話で彼の家も知らなかったし、後々考えてみたら名前もお互い知らなかったと思う。

 そんないたかもいなかったかもわからない彼のことをふと思い出してしまったんだ。

 彼も死んでいたとしたらこの世界に来ているのだろうか、同じぐらいの時期だとしたらまた会った時に遊べるだろうか。

 なんとなく、こうやって思い出していると振り返った時にそこにいるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いて後ろを振り向く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る