第1352話:パチャエ・グレイア~打ち上げられたイカ~

「でっかいなぁ……」

 目の前にいるのは大きなタコ、いやイカかもしれない。

 もしかしたら噂に聞くクラーケンという巨大な頭足類の親玉かもしれない。

 浜辺に打ち上げられたのが先ほど、噂がすごい勢いで広まってたくさんの人が見物に来ている。

「死んでるよな?」

「ああ、死んでる。こんな深海の生物は地上では生きられねぇ」

 そんなことを巨大生物の死体を処理している人たちが話している。

「本当に死んでるんですかぁ?」

 そこに割り込んでいく一人の少女がいた。

「君はだれだ?」

「私は通りすがりの巨大生物マニアですぅ、これまだ生きてると思いますよ」

「何?」

「これ深海のイカに見えますけど、空の生き物ですよ。見たことがあります」

「へぇ、いやいや、こんな大きな生物が飛べるわけがないだろう。鳥のように翼があるわけでもあるまいに。そもそも、空の生き物がなんで海に打ち上げられているんだい」

「空を飛ぶのに翼がいる生物じゃないってことですよ。龍って見たことありますぅ? あれも大きな蛇のような体で空を飛びますよね、このイカのような生物も似たような理屈で空を飛ぶんですぅ」

「ははぁ、そういう生物がいるのはわかったけどまだ生きているっていうのはどういうこった。全く動かないし、どう見ても死んでるじゃないか」

「このイカは寝ているだけですぅ、死臭がしないでしょう? 起きたら暴れるので離れていた方がいいですよ。それとも今のうちに動けないようにしておきますか?」

「まぁ、生きててそのままにしておくと危ないっていうならお願いしようかね」

「やり方は普通のイカと同じでいいですぅ、私は知識があるだけでやったことが無いので、あとはお任せしますぅ」

「お、おい……」

 少女はその場を離れていき、私はその少女の後を追う。

「あれ、でたらめじゃないの?」

「ほんとの話だよぉ、イカでも食べに行こーか」

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