第1291話:シツラエ_カノタ~案内人~
「案内を務めさせていただきます、*****と申します」
そう名乗った彼の顔は誰かははっきりわかるのにその誰かが全くわからなく、名前も同様である。
夢の中では確実に友人だったのに、起きてみるとそれが誰かわからない、心当たりもない、そんな感覚に近い。
「今日は霧が濃いですからね、はぐれないように付いてきてくださいね」
「霧?」
そう言われて気づく、いつの間にか周りは白い霧で覆われていた、いや覆われていることに気づいた。
元々の風景がどのようなものだったかをそもそも覚えてはいないのだから霧が出ていることに気づいたと表現するしかない。
「さて、行きましょうか」
*****は迷いない足取りで歩き出した。
「そういえば、どこへ向かっているんでしたっけ」
「あなたの望んでいた場所へ」
「それは……?」
そう返した途端*****はぴたりと足を止め、こちらを振り返った。
「覚えていないのですか?」
「え、えぇ。どこかへ向かおうとしていたことは覚えているんですが、それがどこだったか……」
「なるほど、それでこの霧ですか。仕方ありませんね、目的地もわからぬまま連れ歩くのは私の本意ではありませんから、ここは一度思い出すまで落ち着いて休みましょうか」
そう言うとその場に腰を下ろして椅子に座る。
「ほら、あなたも座って休みましょう、お茶もお菓子もありますよ」
*****の目の前にあるティーセット、空いた椅子、それを認識した途端そこに有るのが当たり前になり、違和感があることに違和感を抱きながらも座ってお茶を飲む。
「慌てず行きましょう、いずれ霧は晴れるでしょうから」
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