第1225話:クチク・サカイヤ~電脳ホール~

「この先は観測できるだけでも電脳侵食率75%を超えている。うっかり踏み込みすぎると物理肉体を失って電脳存在に置換されてしまう、慎重に進むように」

 突如日常が覆って巻き込まれた非日常、先日偶然巻き込まれた特殊環境発生事故とそれに対応するチームとのあれこれの結果、「才能があるから」とかいう理由でスカウトされてチームに加わることになった。

「私は気をつけなくてもいいでしょ、先行して原因をさっさと壊してきますよ」

 私はテクスチャのはがれたゲームのようになった路地の奥を指して言う。

「クチク、お前は才能があるとは言ったがあくまでそれは特殊環境の中でも自分を変質させない才能だ。100%電脳化した世界には適応できずに入ることはできないし、環境次第では普通に生命活動を維持できずに死ぬ」

「うへぇ」

「わかったら先に行かずについてこい、こないだのは空間浸食と物体の変質以外の要素は強くなかったからうまくいっただけの、言わばまぐれだ」

「じゃあ私はそういう防護服みたいなの着なくていいの?」

 彼らは体に密着するつやてかの光る模様入りのスーツを着ているのに対し、私は学校の制服。

「お前はそれでいい、発生した環境次第では特殊装備もつけてもらうが、お前はそのままでいるのが一番強い」

「ふうん。まぁそれ恥ずかしそうだし、好きな格好でいいって言うならそれでいいけど」


 路地の面影が無くなるぐらい変質した空間の奥まで来た時、リーダーが言う。

「センサーに感アリ、何か来るぞ。気をつけろ」

「空間をおかしくしてる主!?」

「いや尖兵だ、もしくは被害者と呼ぶべきか」

「え、」

 建物であったであろうオブジェクト塊の隙間から現れたのは人、ところどころ表面が剥げていて情報タグらしきものを引きずって、顔にはノイズが被っていて表情は見えない。

「なにこいつら!? ゾンビ!?」

「電脳化に影響され変質した人間だ。意識はもう残っていないだろうな。言うなれば電脳ゾンビだ。脳を破壊されないように気をつけろ」

「助けられるの?」

「無理だ、肉体は再利用されているものの脳は完全にフォーマットされている。」

「じゃあ倒しちゃっていいのね」

「気をつけろよ、お前は侵食には強いが普通に殴られたら死ぬんだからな」

「その辺は問題なし」

 電脳ゾンビとやらの生身っぽい部分を狙って殴り倒して言う。

「私は強いもん」

 かつては拳で世界一になたことだってあるんだから。

 そう宣言した私を見ながらリーダーは「情報に身体を置換された奴を殴り倒すんじゃないよ……、常識が揺らぐじゃないか」と額を抑えながらつぶやいた。

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