第1175話:アイン=カリンⅢ~殺意の形~

「やあシャリア、今日は誰か殺したかい?」

 赤い夜の日は散歩に出かけてシャリアを探す。

「今日はまだ、殺さないといけないヒトを見かけないから誰も殺してない」

 出会えるかどうかは運しだいで、僕は出会ったら「今日は誰か殺したかい?」と尋ねるようにしている。

 特に理由があるわけじゃない、彼女と僕が初めて出会ったのが赤い夜の日で、シャリアという少女の認識がそういう認識になっているというだけのことだ。

 何度か「さっき、一人ね」という返事をもらったことがあって「もしかして知り合いかも?」と思ってどんなヒトを殺したのか尋ねたことがあるが彼女は殺した人のことを語らない。どんなヒトを自分が殺しているかすら興味がないようなことを言う。

 殺す理由すら「殺さないといけない人だったから」とそれだけだ。

「んー、ダメですね……」

 今夜であった彼女は道路わきのベンチに腰掛けて額を抑えていた。

「どうしたの? 具合わるい?」

「ちょっと、殺意が溜まってて……、ここしばらく誰も殺せる人がいなかったもので」

 確かにここ数週間は「誰も殺してない」という返事が返ってくることが多かった。

「やっぱり殺せてないと調子悪くなるんだ」

「そうですね、生理現象みたいなものなので、どうしても調子が崩れます」

「別の形で殺意を発散するみたいなことはできないの?」

 彼女が言う溜まってる殺意というのがどういうものかはわからないけど、ストレスみたいなものだろうか。

 そうだとしたら、何か代償行動でよくなったりするんじゃないだろうか。

「例えばゲームとか」



「シャリア! 右から来てる!」

「だめです、あれは殺すヒトじゃありませんから」

「そもそも人じゃないよ! ゾンビ! 倒さなきゃやられるから!」

 ゲームセンターで体験型ゾンビゲームを一緒にやってみたがどうにもシャリアの殺す殺さないの基準はゲームにも適応されるらしい。

 結局一体も殺すことなくゲームオーバー。

「殺すゲームはダメか……」

 殺さないといけないヒトが出てくるゲームがあればいいんだけど。

「あ、あのヒト……」

「どうしたのシャリア」

「あの集団の一人、青いボーダーのヒトです。あのヒトを殺します」

「ああ、あれが殺さないといけないヒトなんだ、他のヒトは?」

「ダメですね、できればひとりだけ引き離したいのですが」

「難しくない? 帰り道を狙った方がいいんじゃない?」

「待ってると夜が明けてしまいそうなので、今すぐに何か飲み物でもぶちまけるなりして一人だけ分断してきてください」

「え、僕がやるのかい?」

「他に誰もいないでしょ」

「えぇ……」

 確かにシャリアの殺意の解消には協力するし、誰を殺しても気にはしなくても、僕自身が誰かを殺すことに協力することになるとは思わなかった。

「いや、僕はやらないけど」

「え、」

「シャリアが誰を殺しても知ったことではないけど、僕はヒトを殺そうとは思わないし」

「そう……」

「まぁ、頑張ってね」

「本当に手伝ってくれないの?」

「手伝わないよ、僕にはあのヒトを殺す理由はないからさ」

 言ってから少し考える、本当に僕にはあのヒトを殺す理由はないだろうか、見ず知らずのヒトだから、無いような。

「じゃあ、僕は先に帰るから」

 いや、理由ならあるか。

 さっき示された青ボーダーの人の横を抜けるときに持っていたボトルから水をこぼしてしまった。

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