第1076話:ペカチ・プロイト~一緒に帰りませんか?~

「あの、今日一緒に帰りませんか?」

「……なんで?」

 仕事の終わり、ビルを出たところで知らない奴に声を掛けられた。

 一瞬、自分が忘れているだけで職場の人なのかと思って誰だったか考えてみたけど全く思い当らない。知らない人だ。

「そもそも君誰?」

「私のことはどうでもいいじゃないですか、一緒に帰りましょうよ」

「いやいや、普通誰かもわからない人と一緒に帰るなんてしないよ」

「それはあなただけの普通なのでは?」

「今選択権を与えられてるのは僕なんだから僕の普通で考えさせてくれよ」

「それで、一緒に帰るんですか、それとも勝手に横に付いてこられたいですか?」

「なんだその選択肢、怖いな。できれば付いてこないでほしいんだけど」

「それは無理です、だって私の家も同じ方向ですから」

「じゃあ僕は寄り道して帰るよ、君はまっすぐ帰りなさい」

「それなら私も寄り道して帰る気分になりますねぇ」

「どうしても付いてくるつもりなのか、仕方ない……。職場に泊まることにするよ。君が諦めるまでしばらくね」

「そうですか、じゃあ仕方ないですね」

 ビルの中に戻る僕を彼女は追いかけてくることは無く見送った。

 諦めてくれたのだろうか。



 翌朝、職場のソファーの上で目を覚まして昨日の帰り際にあったことを思い出す。

 夜食事を買いに出た時には見当たらなかったからそのまま帰ろうかとも思ったけど、帰ろうとしたらひょっこり現れそうな気がして、結局職場に泊まった。

 朝食を買いに出て、彼女の姿が無いことを確認して職場に戻るとすでに数人出勤してきていた。

「おはよう、昨日変な奴が外にいてさ」

「それは災難でしたね」

 軽い朝食を食べながら始業時間まで同僚と適当な雑談をする。

「そういえば、今日は新人さんが来るらしいですよ」

「そうなの? 知らなかったなぁ」

「昨夜急に決まったらしいですからね、さっき私も課長に聞いて知ったんですよ」

「へぇ、昨日の夜、急に、ね」

 なんとなく、嫌な予感がしてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る