第1065話:クルキト・カイトク~壁の落書き~

「この壁、でかいのにまっさらで寂しいよな」

 毎日のように通る道でいつも見上げるまっさらな壁を見上げながらそんなことを呟いたのが三日前。


「これはすごいな」

 確か昨日までは何の変哲もない、今まで通りのまっさらな壁だったはずだ。

 薄い印象が薄いままであったことを思い出しながら見上げたその壁には巨大な落書きがされていた。

 建物の持ち主が何かを思って絵を発注したのか、誰かのいたずらか。

 一通行人である僕には知る由もないが、寂しかった壁が賑やかになったのはいいことだ。


「そんな馬鹿な」

 壁に絵が現れた翌日、絵を見上げようと顔を上げてみたら壁はまたまっさらになっていた。

 やっぱり昨日のアレは落書きで、この建物の所有者の不興を買ったのだろう。

 いい絵だったのにもったいない、写真を撮っておけばよかった。


「すげぇ」

 さらに翌日、壁には一昨日とは違う絵が描かれていた。

 昨日絵を消された落書き犯が一晩のうちにまた新しい絵を描いたのだろう。

 今度は消されないことを願いながら忘れずに写真を撮る。


 翌日絵は消えていて、さらに翌日違う絵が現れる。

 それを繰り返してずいぶん経った、僕の壁画フォルダも随分充実した。

 今日は絵が消えている日だと思いながら、最近見上げることもなくなったまっさらな壁もたまには見てみるかと顔を上げて少し固まる。

 昨日とは違う絵が描かれていた。

 昨日撮った写真のタイムスタンプを確認して、確実に昨日撮ったものであることを確認する。

 もしかしたら昨日までも見逃した絵があるのかもしれない、というか消されたから新しく描いてるわけじゃないのか。

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