第942話:ガロン・ゴウロン~壁~

「壁だ……」

 歩き続けてようやくたどり着いた場所、さらに先を目指す僕の前に立ちはだかったのは果て無く見える大きな壁。

 噂には聞いていたが、これほど大きな壁だとは。

 ここまでくる道にも多くの穴や惑わす罠の類は数多くあって、それを何とか振り切ってここまで来たんだが、この壁をどう越えたらいいのか。

 しばらく壁を見上げて時間が過ぎ、登れそうか、どこかに穴が無いか、上からロープのようなものが垂れていないかと試行錯誤して回っていたが、なにも見つからずどう超えようか考えていた。

 どう考えてもどん詰まりであるので周りを見ると結構人がいて、ちょっとした集落のようなものがいくつかできていたりして、そこで生活をしながら壁を超える方法を議論したりしているようだった。

 すでに固まってしまっている集落に、僕は混ざれる気がしなかったので壁にもたれかかりながら一人で夜を明かし、壁の向こうのことを考える。

 この壁の向こうにいる人たちは、とても輝いていてみんなのあこがれで、そこへ行けば僕もそうなれるんだと、そう思ってここまで来て、彼らはこの壁を越えたんだと、そりゃあ輝くな、この壁を越えられるんだから、僕では考えられないようなことも知っていて、かっこいいんだ。

 そりゃあみんな憧れる、ここまで来てしまう。

 そんなことを考えながら眠りに落ちた。

 まわりのにぎやかな集落をすこしうらやましいな、とも思った。


 朝になる、僕は壁の様子をうかがいながら歩くが壁には一切のほころびがが無く、手を掛けることもできそうにない、上を見ればキリがなく、横を見れば果てもない。

 そうやって様子を見ていたら、一人の少年が走ってきた。

「あ、君……」

 声をかけそうになって、その顔が僕を見ていないことに気づいて、結局声は届かずに、彼は足を止めることなく壁を、何の抵抗もなく抜けていった。

「あ、あれ?」

 彼が抜けていった辺りを見ても、壁に一切のほころびは無く、後日ニュースで彼の名前を知った。


 壁にたどり着いてから、長い時間が経ったが僕は独り者で、いまさらどこの集落にも身を寄せられないな、なんて考えながら、何人もこの壁に来るのを見て、集落に身を寄せて行ったり、壁を抜けたり、ここから去っていくのを見た。


 更に時が経ち、壁を見るより、集落を見ることが多くなってきた。

 壁はいつ見ても変わらずに、僕が抜けられそうなほころびはなくあり続けていたから、変化の激しい集落を見ている方が日々の娯楽になっていた。

 どの集落にも、長のような存在がいて、長くここにいたり、カリスマのようなものがあったりして、集落の人たちはその長をとても尊敬しているようで、まるでそれは壁の向こうに憧れる僕らのようで、あれも幸せなんじゃないかって、そう思えて、ここに住むのも悪くないかもしれないなんて、そう考えてしまった。


 それからしばらくたったけど僕は相変わらず独りで夜を明かす日々が続いたが、壁に向かう日が増えていた。

 僕はこの壁の向こうに行きたかったのか、幸せになりたかったのか、延々頭の中でそれが回ってしまって、壁に向かっている間は考えなくて済んだから、そういう理由で壁を叩く日々が続いた。

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