第938話:スインジ・ファスハ~影の伸び方~

「そろそろ夕方か……」

 日もだいぶ暗くなってきて、もうそろそろ昼から夜に移り変わるだろうという時間帯、ふと豆知識を思い出した。

「知っているかい? 夕方は、影がとても長くなるんだよ」

 自分のとても長い影を指して言う。

「え、影?」

 言われて意外そうな顔で答える、知らなかったとかそういう感じではないような、そもそもの話、お前は何を言っているんだ?という、不思議そうな反応。

「影だよ影、知らないわけないだろ? ほら、お前の足元からも伸びて……? ないな、どうなってるんだおまえ?」

「いやどうって、影は動かない物にしか出ないだろ?」

「え?」

「え?」

 いや普通物体全部に影はできるだろ? なに言ってんだこいつ、って思ったがよく考えればこいつの影見たことない気がするな? いや普通他人の影なんて気にしないだろう。

「いや、でも顔には影できてるだろ?」

「それはできるでしょ、自分の顔に自分の陰なんだから」

 なんだその理屈は、同じレイヤーとかそういう話なんだろうか。

「ていうか、なんで影ができるというか、伸びるの?」

「そりゃあ、夕方になると太陽が傾く……かないな?」

 この世界の太陽は傾かない、単に季節で上下するだけだ。

 一日の間ではほとんど変わらない。

 ならば、なんで俺の影は伸びているのだろう……?

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