第815話:ケミソウ・グリラ~通り抜け落下~

「困ってるんだ」

「……なにを?」

 友人のやっているカフェに相談しに来た。

「まぁいい、相談は聞いてやる。まずは注文してからな」

「それはできない」

「ん、注文できないってことは金か? どんな金の使い方したらここで注文もできないほど困窮するんだ?」

「いや、違うよ。財布は持ってきてないから注文できないってのも間違いじゃないが」

「財布持って出直してこい、ていうか財布って携帯端末デバイスだろ、持たずに出かけるってなかなか珍しいんじゃないか?」

「それが相談なんだよ、呪いをかけられちまってな」

「呪いだぁ?」

「そうなんだよ、変な動物の尻尾踏んづけちまってな。それから持った物の当たり判定が消滅する呪いにかかっちまってよ」

「当たり判定が消滅する呪い」

「まぁ簡単に言えば、物に当たらなくなるんだよ。なんかなくなってもいい物あるか?」

「じゃあこれどうだ」

「よし、間違いなくゴミだな」

 渡された空き瓶がいかにもごみであることを確認して慎重に手に取る。

「普通じゃないか」

「ここからだよ」

 瓶を上に投げる、落下したら自分の頭に当たるであろうコースで。

「おいおい、あぶねぇだろ」

 と、頭に当たるコースで飛んだ瓶は音もなく頭に吸い込まれて、そのまま体を通り抜け、床も通り抜け、おそらく地の底に吸い込まれて行った。

「というわけなのさ」

「そりゃあ、何にも持って出歩けねぇわけだな……」

「そういうこと、どうしたらいいかなぁ……」

「さぁな、どっかで解呪してくれるところ探したらいいんじゃねぇか? その辺のもんぜってぇ触るんじゃねぇぞ」

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