第654話:バニャ・ルシカ~夢の話~

「夢を見たんだ」

「夢? どんな?」

「僕が死んで、違う世界にいたんだ。 その世界はなんでもあって、技術もとても未来で、困ることなんてめったになくて、変な生き物や、変わった人がたくさんいて」

「楽しそうな世界じゃないか」

「うん、でもさ。 その世界には君はいないんだ」

「そうなのか?」

「そう、死んだのは僕だけ。君が死んでなかったのは喜ばしいことだけど、どこか心の中では『君も一緒に死んでいたらよかったのに』なんて思うことも無くはなくてさ」

「仕方ないだろ、俺だって似たような境遇になったらきっと思うさ、そしてお前はそういう自白をする俺を許してくれるだろ? 俺も同じさ」

「君はそう言うだろうと思ったよ」

「まぁな。でもよ、夢だろう?」

「そうだよ、これは夢の話。だから本当は君に謝ったりする必要はないんだ。いつものように、くだらない話をして、適当に日が暮れたら「また明日」って言って別れたい」

「ああ、そうだな。せっかくだから、そうしよう」

「でもさ、してしまったら、僕は君も死んでいたらってまた思ってしまうんだ。だから、今日はもう帰ろう」

「……そうか、そうだな」

「うん、じゃあ、またね」

「…………!」

 最後の君の言葉は聞き取れなかった。

 だからこれは、夢の話だ。

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