第641話:ファイン・ソフト~人生レール~

 人の人生は死んだときに価値が決まるという話を聞いたことがある。

 それを教えてくれたのは誰だったか、私が規定のレールに沿った人生を進むことを心配した顔も覚えていない誰か、レール上の石として排除されてしまった誰かが教えてくれた言葉。

 その言葉通りに解釈するのなら、私の人生というのは完璧にレール通り、他人の意図の通りに生き、他人の利益のために恋をし、誰かの邪魔にならないように死んだ。

 うん、誰が人生の価値を計算するかは知らないけど、上出来じゃないかな?




 知らなかった、人生に二度目があるなんて。

 二度目でも関係ない、私は望まれるように生きるだけだ。

 先に死んでいた祖父のところへ拠って生きることにしたんだけど

「この世界では好きに生きろ、もう、もういいんだ……」

 祖父はそんなことを言ってきた。

「なぜです? あんなに私に言うことを聞くように教えてくれてたじゃないですか」

「もう、いいんだ……」

 家には置いてもらえたが、この話題に関してはこういう風に突き放される。

 家事はかつて乞われたように行って、誰かの代わりを務め、常に笑顔を絶やさず。

 祖父はあまりいい顔をしない、望まれたように生きているはずなのに、望まれていないのだろうか。



「君は、まだそんな生き方をしていたのか」

「たしか、あなたは……」

 レールの上から除けられた石、大人になっていた彼はこの世界で私と再会するなりそんなことを言ってきた。

「君のことだ、利用されて、利用されて利用されて、邪魔になったからと捨てられてんだろう」

「それの何が悪いの? 私は誰かのために生きて良かったと思っているんだけど」

「じゃあ、今は? 今は誰のために生きているんだ」

「今? 今は……」

 誰に乞われたんだっけ、お祖父さん? は好きに生きろと言う。

 目の前の彼もやめろと言う。

 いつも私が助けている誰か……?

 顔は一人として浮かばない。

 そうか

「今は私がこういう生活を望んでいるからこうしてるの、だからそんな顔しないで?」

 私は彼に笑みを向ける。

 いつもそうしているように。

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