第531話:ゲイズ=タカムラ~徳ポイント~
「私が死んで、ここは死後の世界であるということは理解しました」
「話が早くて助かります」
私は死んで、目の前には多少色気の足りぬ天女様がいて、死後の生活についての説明を受けているならば、私が死したことを疑う理由もなし。
「して、私の徳ポイントはいくらぐらい貯まっておりましたかな?」
「徳ポイント?」
「ええ、自分で言うのもなんですし、天女様ならわかっておられるでしょうが、生前の私はとてもとても真面目に生き、人を助け、欺かず、施し、そういう生き方を続けていました。さぞかしたんまりと徳ポイントが貯まっているのでしょう?」
「え、あーそういう宗派の方でしたか……」
どういうわけか天女は口ごもる。
「えぇとですね、徳ポイントというものはですね、実はなくてですね」
「ない?」
「はい、ありません」
「ないというのは、私の行いが悪くて徳ポイントがゼロだった、まったく貯まっていなかったとか、そういう話で?」
そんなはずはないだろうが、一応聞いてみる。
「いえ、そもそもですね。この世界で前世から引き継げるものっていうのが、記憶とかそういう程度のものしかなくてですね、生前の行いによってこの世界で何らかの特典を得られる、というものはないんですよ」
「これっぽっちも?」
「まったくのゼロです」
えーと、つまり、それは、どういう?
「もしかして、私の生前での我慢や修行はすべて無駄だったのですか?」
「この世界に限れば、そういうことになってしまいますね」
「え……じゃあ、それじゃあ、私は何のために……」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
死の宣告を受けたかのようにへたり込む私を見て、天女様は慌てて声をかけてくる。
「え、ええ、大丈夫です……。生前の心の拠り所だった徳ポイントがなかったという事実に打ちのめされただけですから……」
「はぁ、参考までに徳ポイントが貯まっていたらどんなことができたか、聞かせてもらってもいいですか?」
「ええ、徳ポイントが貯まっていれば死後衣食住に困ることはなく、聖人の域であれば神通力を与えられ、何不自由することなく暮らせると伝えられておりました……」
「衣食住に困らなくて、神通力が使えて、何不自由なく暮らせる、ですか。はぁー、へぇー」
天女様はなにか納得したような、そんな表情で私が言ったことを反芻してから言った。
「この世界ではそれら全部叶いますよ、よかったですね」
「はぇ?」
理解の追い付かなかった私は、とても生前の私を知っている者には想像もつかないであろう間の抜けた返事をしてしまった。
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