第485話:バルタル・コーエイ~自分のために~
「貴様、恥ずかしいとは思わんのか!」
「何がだ」
酒場、前世の同僚と飲んでいるのだが、酔った勢いで変なスイッチを踏んでしまったようだ。
「他のため世界のために奉仕するのが我ら戦士に課された使命のはずだ、なのに貴様、『俺は俺のためにしか戦わない、他人の為に戦うなんて死んでも御免だ』だ!」
「ああ、その話か。ていうかよ、その志を尊んだのは前の世界の話で、もう今はそういう世界じゃないんだぜ?」
「しかし、死しても戦士。魂に刻まれた志は生まれ直したところで変わらぬ!」
ああ、こういう奴だった。クソ真面目で融通の利かない、へ理屈も通じない、思ったことは全て相手に叩き付けないと気が済まない、俺とは真逆の奴だ。
ただ、俺もこいつも実力だけはあったから共に隊長を務めていて、やたらとライバル視されていた。こいつは、時折俺が見せる不真面目な態度が嫌いだったのだと思う。
「志は死しても変わらぬ、ね。まぁ俺は昔からそうだったからな、死んで変わったわけじゃない、志がなかったわけでもない」
酔った勢いというのは本当に恐ろしい。
幸い生前にこいつと酒の席を共にしたことはなかったが、口が滑る。
「俺は俺のために戦っていたのは事実だが、そうすべき理由があったんだよ」
「理由だと?」
「俺はなぁ、見てのとおり適当な性格だ、幸い才能があって戦いは負けなしだったが、責任は他人に押し付けがちだった、覚えてるだろう?」
「……戦闘以外での失敗はほとんど部下に押し付けていたな」
「雑務ばかりは自分のためになんて言ってられないからな、適当に責任を持てそうなやつに押し付けてたよ。ただまぁ戦闘に関しては別だ、全ての戦いは俺のためにあったし、俺は全ての戦いにいいわけをしなかった」
「いいわけを必要としていなかっただけだろう」
「負けなかったからな、覚悟の在り方で勝ち続けてきたわけよ、『俺は俺のために戦っている、失敗は全て自分の責任であり、他者に任せられるものではない』戦場に立つ前に必ず一人で唱えてた、つまりはそういうことよ。全ての責任を自分で負うために、俺は自分のためだけに戦う必要があったのさ」
「それを他のためというのだ……、生前から知っていればもっと仲良くやれただろうに……」
「知るかよ。誰が何と言おうとも、俺は俺のために戦ってきた、これからもそうさ」
ああ、昔の知り合いと一緒に酒なんて飲むもんじゃないな。
まぁ、いいか。
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