第355話:橘慶太Ⅴ~三つの扉~

「やあやあやあやあ!ようこそようこそ!」

 目の前には三つの扉と妙にテンションの高い仮面の男。

 そして僕は椅子に縛り付けられている。

 どういうわけか、誘拐されてしまったらしい。

「俺なんか誘拐しうするつもりだ?」

「さぁ、どうすると思うかね? まぁ、大体予想がついているんじゃないか?」

 わざとらしく後ろの扉を顎で指す。

 三つの扉から想像できるのはアレしかない、か。

「あれだろ、この中で正解は一つだけで、選んでないはずれが一個開かれる奴で、確率がおかしくなるあれだよな、なんとか問題って奴」

「ひどくあやふやだがご明察ということにしよう、君になじみのあるであろう言葉だと『モンティホール問題』というやつだね」

 ああ、聞いたことがある、それだ、モンティホール問題。

「君の曖昧な理解のままで話を進めるのも酷というもの、しっかりと1から説明してやろうじゃあないか」

 説明されたモンティホール問題の概要はこれだ。


 ・扉を三つ用意する。実は扉でなくともよいし、三つでなくてもよい。

 ・その中には一つだけ正解がある。こちらは一つである必要がある。

 ・回答者は扉の中から一つ選ぶ。用意した回答が扉でない場合は用意された回答の中から選ぶ。

 ・出題者は、回答者が選んだ扉と正解の扉の2つを残してはずれの扉を全て開ける。回答者が選んだ扉が正解だった場合は無作為に選んだはずれの扉を1つと回答者の残した扉を残して開ける。

 ・回答者はここで最初に選んだ扉か残された扉かを再選択するチャンスを与えられる

 。

 ・最後にすべての扉を開くか選択した扉だけを開くか、それとも正解の扉だけを開くかは出題者の自由であるが、成否を発表する。


 これが一連の流れだ。

 正直例外やら余談やらが多すぎてあまりはっきりとはわからなかった、帰ったら調べ直そう。

「それで、今からモンティホール問題をやろうってわけだな。正解すれば帰してくれるとかそういうのか?」

「いや? この問題の成否に関わらず無傷でお返ししよう」

「なんなんだ、いったい」

「なるほど、何も賭けていない勝負はつまらない、そう言いたいわけだ!」

「いや別に、そういうわけじゃ」

「君はなんと勇敢にも自分の安否をベットしようというのだね!」

「あーもうそれでいいや」

 なんとなく、こいつは本当に危害とか加えてこなさそうだし。

「しかし、残念ながら君の身柄など欲しくはない、そのベットは成り立たない、コール無しだ」

 だろうね。

「しかし賭ける物が欲しいというのなら、一つ話を賭けようじゃないか」

「話を?」

 なんか、妙なことになってきた気がするな。

「うむ、君がはずしてしまったら、この世界に来てからの話ですこーしだけでいいから妙な体験をしたみたいな話を提供してほしい。万が一君が正解したら私の動機でも話してやろうじゃないか」

 あー、はいはい。完全に理解した。

 今正体と動機を完全に理解したけど可哀そうなので付き合ってやることにしよう。

「長くなってしまったが前置きは終わりだ。さぁ1つ選びたまえ」

「そうだな、じゃあ左のやつで」

 こんなもん、最初はどれを選んでも同じだ。ヒントなんてないんだからな。

 問題は選択チャンスの時、こいつ仮面のせいで表情は読み取れないから、声の感じでなんとか読み取りたい。変声機を通しているみたいだからなんとか抑揚で。

「なるほどなるほど、左の扉でいいんだな?さて次だ、はずれの扉オープン!」

 残っているはずれの扉が勢いよく開かれた、開け放たれた扉には大きくアタリと書いてあった。

「段取り悪すぎないか?」

「すまん……」

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