第320話:シャマニ_ローズ〜ギャンブルするなら他人の金で〜

「よぉ、ハヤトじゃねぇか」

 魔物ハンター協会でちょっと前から面倒見てやってる若いやつを見かけて声をかける。

「まーだハーメンの卵とか集めて小遣い稼ぎしてんのか?」

 こいつはまだ弱いから、弱点をつけば簡単に倒せるような小物を相手にしてるようなやつだ。

 そろそろもっと強いやつに挑戦してもいいと思うんだけどな。

「ローズさんこそどうしたんですか、魔物ハンターはやめたんじゃなかったんですか?」

「そういやそんなことも言ったような気がするな?ま、気にするでない。そんなことよりもいいところで会ったな。ちょっとついてきな」

「え、ちょっとどこへ」

 首根っこ掴んで連れていく。

 まだ持ち運びしやすいサイズで良い。


 サイコロが転がる、ルーレットが回る、カードが配られる。

 様々な音が主張弱めに響いている空間。

 いわゆるカジノへやって来た。

「さて、遊ぶぜ!」

「いやいやいや、待ってくださいよ。なんでカジノなんですか」

「そりゃあ、お前の金を増やしてやろうって話だ。金があればもっといい装備を揃えてもっとつえー魔物を狩りに行くことだってできる。ハーメンの卵集めなんかしてたら一生かかったって戦って面白い魔物なんかとは戦えねーぜ?」

 ハヤトは微妙な顔で考えていたが、納得がいったようだ。

「わかりました、勝てるんですよね?」

「当たり前よお、俺を誰だと思ってやがる。さっさと向こうでチップを買ってこい」

「俺が払うんですか?」

「ったりめぇだろ、てめぇの金を稼ぐんだ、てめぇが金を出さなくてどうする」

「わかりましたよ」と納得のいってないような顔でチップを買いに行った。

 さて、戻ってくるまでの間によさげな台を見繕っておくか。

 うーむ、向こうのサイコロの台はダメだな。

 サイコロの悪魔がいる。

 あんなのがいたらぜってぇ勝てない。

 となるとルーレットか、カードか、エカンロか。

 カードはなんとなく運以外のなにかが絡みそうだから、ルーレットかエカンロ、そうだな、ルーレットにするか。

「買ってきました」

 チップは小さなかごの半分ぐらい、しかも一番安いやつ。ビビりか。

「これっぽっちかよ、別に金使いきったって飢えて死ぬこともないんだぜ?もっと買ってこいよ、まぁいいや。こんだけ俺に預けとけ、お前は、初心者向けだしサイコロでも転がしてきな。ルールは聞けば教えてくれるさ」

 あのサイコロの悪魔も初心者には少し優しいと聞くしな。

 俺はかごの中のさらに半分を手で掬ってルーレットに向かう。

 ハヤトは微妙な気分の顔をさらに複雑な気分の顔にしながらすごすごとサイコロ台に向かった。


 数時間ルーレットに張り付き、適当に運任せに賭け続けた結果。

 預かった金は数十倍になった。

 ううむ、自分の金より他人の金の方が増やしやすいというのは本当だったな。

 そろそろ退散するかとハヤトがいるであろうサイコロ台の方を見ると膝を抱えてうずくまっているハヤトが見えた。

 おお、こりゃあ最初少し勝てたけどその後負けて、ムキになって追加で賭けて、全財産持ってかれたやつか。

 サイコロの悪魔えげつねぇことするな。

「おう、ハヤト。大分負けたみたいだな」

「ローズ……」

「ほれ、増やしてやったぞ」

 そう言って、かご二つ分の最上位チップを渡してやる。

「ええっ!!こんなに!?」

「ああ、今日は結構運が良かった。飯でも食いにいこうぜ」

 今日の俺の稼ぎはちょっと豪華な飯一食といったところか。

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