第149話:ヒナタ・メイア〜派遣魔法使いのお仕事〜

 また、仕事中に呆けてしまった。

 割りといつもそんな感じなのだが、先日はまずかった、あと一瞬気がつくのが遅ければ、依頼人はペタんこになったいただろう。

 まぁ、手遅れになる前に気づいて助けることができたし、依頼人には怒られるということもなかったしよかったとしよう。

 さて、今日は僕への依頼は来るだろうか。


 来た、僕の使える魔法はこの世界で買おうと思ったら結構高価なものばかりなので、ほとんどの日に依頼が入る。

 今日の依頼は、ワープゲートの無いエリアへの移送、今日と明後日の二回か。

 移送だけならば特にトラブルが起きるようなことではない。


 そんな馬鹿な、まさか移送先から僕が帰れないなんてことになるなんて。

「何てところに転移させてくれたんですか」

「いやー、すまん。来れるならば帰れるだろうと思っていたのだけどな、護ってやるから勘弁してくれ」

「ここで使った魔法の分は全部まとめて倍額請求させてもらいますからね」

 話ながら、僕と依頼人は追いかけてくる知性の欠片もない怪物、ハグメルマルマスから逃げている。

「そこ、左の道に入れ」

「少し狭くないですか?」

「広げてくれ、そんぐらいできるだろ」

「了解、空間拡張追加ですね、1日10000パソになります、帰れるまでの分全部請求させてもらいますね」

「かー、結構するなぁ!」

「空間系は高いですよ」

 無駄口を叩きながらも、魔力を操り印を組み立て、言葉で締めて左の小道を一時的に広げる。

「入り口閉じますね!」

「それも有料か?」

「当然です」

 僕はこういう命の危険にさらされる仕事は受けたくないんだ、戦えるわけでもないし、強力な守護の力を持つ装備を着けているわけでもない。

「早く安全で開けた、魔力の安定した場所まで連れていってくださいよ」

「そうは言ってもなぁ、このまま最深部まで一緒に行かねぇ? そっちの方が楽だわ」

「あり得ません、その方向でいくのであれば、料金は100倍にして請求しますからね」

「それは困るな、安全なところに案内することにしよう、その安全な場所が最深部だった場合は?」

「変わらず100倍ですね」

「違う安全な場所を探すことにするか」

 できるだけ深部のそういう場所を考えているような気がするが、危険手当てをふんだくろう。

「そろそろ行ったんじゃないか?」

「そうですね、開きます」

 ハグメルマルマスが既に外にはいないことを確認して、閉じた壁を開く。

「さて、どっちに行くんですか?」

「こっちだ」

「そっちは本当に出口ですか?」

「ああ、じゃあこっちに行こう」

 彼は、最初に指示した方向と違う方向に歩きだした。

「しっかりしてくださいよ、僕がいたら逃げ場には困らないとか考えているなら、もうあなたの逃げ場は用意しませんからね」

「わかったわかった、大丈夫だ。

 こっちが出口で間違いないよ」

「信用します、道を間違えないように。

 不信な動きを見せたら、私だけそこらの歪みに姿を消します」

「一人で出られるのかい?」

「その方法を思い付いたので、できれば帰りも僕に依頼してほしいですからね。

 同意の元に帰りたいんです」

 そう、空間を拡張して安全な場所を作り、安定した空洞に繋げてそこで転移魔法を発動する。

 それで、僕だけは安全に帰ることができるが、まぁ帰りは別の人を使うだろう。

「わかってるよ、この道は正しい道だ」

 まぁ、これだけ脅せば間違っても深部に向かうことなどないだろう。


 しかしその後、彼と僕のうっかりが重なり、うっかり最深部まで潜ることになってしまったのだった。

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