第147話:キレロ・リレ〜常夏の街で〜

「いやー、この街はいつ来ても暑いねぇ」

「ええ、冬季はこの街で過ごすのが一番楽ですね、寒さとは死ぬことです」

「死ぬほど寒いのは一部の環境だけだよ」

 この街は、つねに常に夏季の気候を保ち続ける街、【イルヴァンス蒼き太陽の都】。

 街の中央にある、炉の熱を空の鏡によって分散、反射して常に街を明るく照らしている。

 夏季以外もないが昼以外もない街だな。

「さーて、冬季の間はここに滞在するとして、どうする?」

「夏を満喫します」

「よし、それでいこう」

 この街に滞在している間の方針も決まったし、宿に向かうか。

「予約しておいたキレロ・リレです」

 やけに日焼けした受付のおっさんに手続きをしてもらって、部屋に荷物を置きにいく。

「海ですね」

 窓の外には青い大きな水溜まりが広がっていた。

「いや、あれは海じゃない」

 彼女、リリ・レレが海とかんちがいするのもむりはない海ように見える景色だが、あれこそがこの街の蒼き太陽、根元物質を反応させることにより熱と光を空に放ち続ける炉だ。

「あれのおかげで、この街は常夏の街でいられてるんだ」

「じゃあ、自宅にもあれをつくればうちも常夏ですね」

「そうなるね」

 そうはならないが、否定して説明するのも面倒だし、流す。

「さて、夏を満喫しにいきますか」

「そもそも、夏とは何をするものなんでしょう?」

「俺の地元では夏は海で泳ぐものだった」

「あれは?」

 外に見える炉を指してリリ・レレが聞く。

「あれは海じゃない、近づくと死ぬらしい」

「この街に海は?」

「ない」

「じゃあ、どうやって海で泳ぐの?」

「海じゃなくてもプールならある」

「そもそも私は泳げない」

「これを機に泳げるようになるというのは?」

「いや、濡れたくないし」

「じゃあ、泳ぐのは無しだ」

 泳ぐ以外で夏と言えば何があっただろうか。

「夏にはお祭りがたくさんあったけど」

「この街は常に夏だからお祭りをやっているとは限らないかな」

「つまらない街だね」

「ビックリするほど夏であることが活かせないな」

「常に夏なのに、こんなに夏が似合わない街もそうそうないね」

「ああ、まったくだ」

「生きている意味がない」

「そんなにか」

 夏を満喫するのは、夏季にもっと夏が似合う場所で満喫した方がいいな。

 少なくとも、この街には夏にしかできないことはない。

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