第127話:イマジ〜女戦士とオーク〜

「くっ、殺せ!」

 目の前にはヒラヒラした装飾が付いた鎧を纏った人間の女、そして自分は人間にオークと呼ばれている魔族に分類される種族の男だ。

 殆どの魔族は人間とは違う地域で生活していて、俺もその例に漏れず、山の麓に広がる広い森の奥で仲間と共に暮らしていた。

 そこに突然やって来た女騎士が攻撃してきたから捕らえてみればこの台詞だ。

「俺達にはお前を殺す気はない」

 そう伝えても、

「辱しめを受けるぐらいなら己の舌を噛みきって死ぬ!」

 と言って聞かないので、仕方なく一時的に猿轡を咬ませて転がしてある。

 むぐむぐ言っているが死なれても処理に困るし、話が纏まるまではこのままだ。


「それで、あれの処遇はどうする?」

「この展開、俺は人間の書物で見たことがある、書物で見るといい気がするが実際に遭遇してみると、無いな」

「ああ、無い」

「もとより、危害を加えるという案が無しだ」

「ああ、そうだったな」

 なかなかアイデアが出ない。

「少し、あれと話をしてくる」

 俺は会議を抜け、人間の女を転がしているところへ行く。

 牢などないので、空き部屋に転がしてあるだけだ。

 見張りに一言言って部屋に入ってみると、先程のように騒ごうとするのは止めて大人しくしていた。

「話をしに来た、今から猿轡を外すが騒いだり、舌を噛んだりするようなら再び着ける、いいな?」

 人間は首を縦に振る、人間の文化には詳しくないが肯定を示す動作だろう。

 この状態で否定する意味もないだろうしな。

 そう判断して猿轡を外してやる、よし、騒いだり舌を噛もうとしたりしないな。

「それで、なぜ俺達の集落を襲ったんだ?」

「オークだからだ」

「はぁ?」

「私のいた村ではオークの集落へ一人で行って帰ってこれて一人前と認められる、だから私はここに来た」

 ああ、そういう文化の世界から来た人なのか。成人の義とかそういうやつ、俺も昔洞窟の奥に一人で行かされたな。

「殺せというのは?」

「捕らえられたときの正しい作法だ」

 どんな作法だよ。

「やけに素直になったな」

「正直、教えられていた展開と違いすぎて私も困っているのだ」

「世界が違うからな、元いた世界ならその通りの展開になってただろうよ」

 世界が違えば文化も違う、同じ生物の生態も違う。

 俺のいた世界の人間はこんなのじゃなかった、同様にこいつのいた世界でのオークも俺達のような存在ではないのだろう。

「まぁ、お前もこのままでは帰れんのだろう?協力してやる」

「オークの施しは受けん」

「そうは言ってもな、俺達はできれば穏便に帰って欲しいが、お前は成人の義とやらをやり通したいんだろう?」

「ああ」

「だから、成人の義のシナリオとやらを教えろ、その通りにやってやるから、その施しを受けないみたいなのもシナリオなら一旦置いておけ」

「そうか」

 そうかって、こいつはそれでいいのか。

「まぁいい、ついてきてくれ」

 足の拘束だけほどいて、会議をしている部屋に連れていき、仲間に説明する。

「という訳で、こいつの成人の義とやらを手伝うことになった」

 皆、少し戸惑ったようだったが、なんとか納得してもらえた。

「それで、具体的にその成人の義は何をするってことになっているんだ?」

「基本的にはオークの集落に単独で襲撃し、一つ首を持って帰ればいいのだが、誰か1人首を差し出してもいいという奴はいないか?」

「いるわけないだろ」

 そんな無茶な要求するやつがあるか。

「さっき捕らえられたときの作法がどうとか言ってただろ、捕らえられた場合はどうすれば成人の義を完遂したことになるんだ?」

「捕らえられた場合は基本的に殺すことを要求するが、基本的にオークは我らを殺さない。

 そして要求に反抗しつつも従い、解放されることで成人の義を完了したことにすることもできる」

「よし、それでいこう」

「では、要求を聞こう」

「何かあるか?」

 皆に聞く。

「よくされる要求の例とかないか?」

 一応例があれば考えやすいだろう。

「そうだな、性的な要求が多いと聞く」

「うちではそんな趣味の奴はいない」

「失礼な!」という人間の抗議を無視して話を進める。すまんな、人間の世界でどれだけ美人でもオークの基準ではあんまりな容姿だ。

 それ以降あまり意見が出ない、仕方ないだろ人間の女に要求することなんかすぐに思い付くものではない。

「俺は、その鎧のデザインが気になる」

 静まり返った会議室に一つの意見が生まれた。1人のオークが人間の着ているヒラヒラした装飾の鎧を指して言った。

「この鎧か?この鎧は街では女性に人気のブランドでな、かわいいだろう」

「かわいくはないな」

「ああ、かわいくはない」

「なにぃ!貴様らの美醜はわからん!」

 仕方ないだろう、種族も文化もそれこそ世界が違うのだから。

「俺は街に行った時にそういうデザインの服が気になり購入しようとしたら、女性用だと言われ断られたことがあるのだ」

「俺もある」

「俺もだ」

 結構な数のオークが同じ思いをしているらしい。

「ようし、決まりだな」

 という訳で、人間への要求はオークのサイズに合う、人間の女性服を買ってくるということで決まった。

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