第80話:皇勇人Ⅵ〜異世界の同人誌即売会〜
「同人即売会?」
「そうだ、あと10日後にグルヴェートの東の平原にて開かれる、個人で作った様々な物が売りに出される。その中には通常ならば手の届かないマジックアイテムや戦術書、秘薬なんかも並ぶんだ。まぁ、自作アイテムのフリーマーケットみたいなもんだな」
戦術書やマジックアイテムはともかく、その秘薬って大丈夫なやつか?
ここは、魔物ハンターギルド。
来てすぐの頃に知り合った人に色々なアドバイスをもらっている最中に興味深い単語が飛び出したので深く聞いてみている。
「それで、出展ジャンルは他にはないんですか?マジックアイテムや秘薬、戦術書とかだけ?」
「やけに食いつくな、自作のものならなんでもアリだよ、運営に許可さえもらえればな」
なるほど、つまり、あのジャンルの本もある可能性があるな、いや、可能性じゃない、確実に、ある!
「カタログを、見せてもらえませんか」
「カタログ?ああ、目録の事か、リンクを送ってやるから、自分で見ろ」
送られてきたリンクにアクセスして、カタログを、ダウンロードする。
データ群の中から、目的の物に近い気がする物を適当に開き、これじゃないこれでもないと、送っていく。
ある程度送ったところで、手が止まる。
やはりあった、数は少ないが、まぁ、あることさえわかれば問題ない。
当日。
「この行列、どこまで続いてるので?」
「会場入口までだな」
「はぁ」
予想はしていたが、列が長い!日本にいた頃参加した日本最大の同人誌即売会の十倍ぐらいある!
「開場は日3つ、あと一時間ってところか」
「秋季の開催で助かりましたよ、これが夏季とかだっら人が死ぬんじゃないですかね」
「確かに毎年数人は死人が出てるが、そんなもん対策してこないやつが悪い。一度死んだにも関わらず、そこんところ疎かにする奴がおかしい」
「これ、夏季にも同じようにやってるんですか?」
「年四回だ春季、夏季、秋季、冬季のな」
「俺は春季と秋季だけでいいかなぁ」
「夏はお前のように敬遠する奴が多いから逆に狙い目と言う話もある。ある程度暑さ対策さえ整えておけば、いつでも変わらん」
「そういうもんですか」
「そういうものだ」
とは言っても、会場内はいわゆるテロ行為のようなものを警戒しての事か、魔力の干渉による事故を防ぐためか、個人個人での魔法の使用は禁止されている。
今は秋季で涼しい時期だから良いが、夏季や、冬季はどうしているのだろう。
しばらく待つと、列が動いた。
ゆっくりではなく、一気に。
「え、ちょっ!走って良いのか!?」
「ハヤト、のんびりしてると狙いの物がなくなってしまうぞ」
走るかと思ったが、やはり少々小走り程度の速さで移動する。危ないしね。
ギルドの先輩は既に人の海の向こうに消えた。
まぁ、狙いの物は違うから、はぐれても構わないのだが。
さて、俺は狙いの本をさがしに行こうか。
ホールのなかに入ると宇宙が広がっていた。
というか、なにがなんだかわからなかった。
道はうねり、それでいて踏みしめる足をしっかりと支え、歩いていてバランスを崩すようなことはない。
道は複雑ここに極まりといった様で、あちらこちらで立体的に交差し、ジャンル別ホールに繋がる穴に道が繋がっていた。
専用ナビアプリを起動し目的のサークルスペースに向かって歩く。
そうして到着した俺の目的地、日本アニメジャンルスペース。
ホールに繋がる道はあんなんだったのに、なんか、ホールの中は、みたことある景色だ。
具体的にはコミケと同じ風景だ。
コンクリ打ちっぱなしのホールに並ぶ長机、サークルスペースの中の椅子はパイプ椅子、それを照らすのは水銀灯。
誰がなんの目的でこんな忠実に再現したんだ…………。
それにしても、サークルスペースが少ない。
なんでだろうか、死んでまで作り続ける人がいないのか、それとも、
「まぁ、気にすることじゃないか」
考えてもわからないことは、考えない方がいい。
カタログをみていたときに見つけたのだが、日本にいたときに好きだった作家さんがサークル参加していたのだ。
その人は別に同人作家ではなかったが、この世界に来てまでプロってことでもないのだろう。
スペースの前まで来てみたら、なんと、幻の最終巻が並んでいた。既巻も全部ある。
感動だ。
「先生!俺、生前から先生のファンでした!まさか、こんなところで会えるなんて!俺、死んでよかったって思います」
おっと、感動して考えてることをぶちまけてしまった。
先生も困っている。
「えーっと、君、僕のファンだというのは嬉しいが、死んでよかったなんてことを言ってはいけない。僕もできればこの作品を最後まであっちの世界で書きたかった、死んでよかったことなんて、なんて、まぁ、この世界は素晴らしいとは思うけど、やっぱり、死にたくなかったなぁとは思っている。まぁ、もう何を言っても遅いんだけどね」
「いえ、俺も今、ちょっと興奮してただけで、本気で死んでよかったとは、思ってないです。でも、この世界やっぱり、楽しいなってのは思いますね」
「君もやはり、亜人が好きかい?」
「ええ、亜人いいですよね、ファンタジーって感じで」
「でもねぇ、この世界はあまりにもフィクションが混在しすぎてね、何を書いてもどこかの世界では当たり前のことのようになってしまってね、創作者としては困ってしまうんだ」
「もしかして、このジャンルに人が少ないのも?」
「いや、彼らは単に他のジャンルで活躍してるだけだよ、ここにいるのは日本のアニメを忘れられないやつらばかりさ。
この世界のアニメや小説もいいもんだよ、君も色々開拓してみるといいさ、若いんだから」
「先生もまだすごく若いですよ」
「そういやそうだね、たまに向こうにいた頃の年齢の感覚で話してしまう、困ったことだね。
この世界では誰も年齢なんて気にしないんだけどね」
その辺りで俺はスペースを離れ、一通り日本アニメジャンルを回り、他の世界のサブカルチャー系のジャンルを回ったりして、充実した死後初の即売会を終えた。
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