第23話:ルルニア=ローテルⅡ~お節介ロボとの闘い~

 今日のターミナルはいつもと違う、普段は静かな転生ホールだが今日はざわざわとうるさく、様々な言語での放送が飛び交っている。転生してきたばかりの子供の姿に戸惑いながらも、職員の案内に従い出身国毎に集められている。どうやらジャスという世界で戦争が激化し、複数の国が同時に大量破壊兵器をぶっ放したらしい、その結果、世界中で大量に人も動物も死んで、この世界になだれ込んできているようだ。私がここで働き始めてからも何度か経験している。

 私はジャスからの転生者の案内には参加していない、私には私の仕事があるからだ。

 ジャスからの転生者に紛れて他の世界からの転生者が来ることもある為、私の仕事はそういう人たちの案内だ。私は今、転生ホールの吹き抜け2階通路、その中でも少し通路が広くなって円形の踊り場のようになっているところにいる、その中央には台座があって今は何も置かれてはいない。

 階下でポンポン沸いてきている薄緑の卵にたまに混じって沸いてくる別の種類の卵、それを別室にいるロボがクレーンで回収、そうしてこの台座に置かれる。

 中からはジャス以外からの転生者が出てきて、それを私が案内と。

 こういう、戦争とかの影響で大量に転生者が来るときは基本的に事前にわかるし、準備もできるけど、前になんの前兆がなく大量に転生者が来たこともあった。星ごと爆発したらしい。その世界では事前にそれを知る手段がなかったらしく、直前の転生者から情報が入らなかった。あの時はパニックになったな、しかし、あれでプルリラからの転生者はもう現れなくなって、100年程経ったらもうピク・プルリラも廃墟になってしまうのだろう。あの国は不思議な雰囲気で笑顔にあふれている素敵な国なのに残念です。まぁ、私は100年も生きるつもりはないので関係ないのですけどね。

 階下は今も大騒ぎですが、私の方はあんまり忙しくはないです。私は優秀でどんな世界の人にも対応できるので、こういう仕事をできるのですが、こういうのを見ていると優秀でよかったなぁって思いますね。私は私を必要としてくれる人が多いのは好きなのですが、一度に沢山の人を相手にするのは苦手なんですよね。一対一で話した方がやりやすいですし。

 おっと、そんなことを考えていたらさっき上に持ってきた卵から転生者が出てきそうですね、顔を引き締めて案内役の顔にならなければ。

「お言葉ですがマスター、気合を入れてもマスターの顔つきは一ミリも変わっていませんロボ」

「ロボは黙っていてください、気持ちの問題ですので」

 あのロボ、最初に絶対服従みたいなことを言っていた割には変な茶々を入れてくる、あんまりロボットらしくもないし、こういうロボットらしくないところが積み重なってロボは転生できる生き物になったんでしょうか。物語だとよくある話ですけど、実際にそういうこともあるんですね。

「マスター、私は別にそういうものじゃないですよロボ」

 このロボ、心を読める機能があるみたいですね、科学の世界の技術ってそこまで発展していたんですか。

「ロボ、心を読む機能は封印です、二度と私の心を読むんじゃないですよ」

「マスター、私には心を読む機能などありませんよ、マスターは考えていることが小声で漏れているので、それに対して返答を送っていたのですロボ」

「人の独り言に返事しないでください、あと、転生者の相手をしている間は」

「話しかけない、ですね、了解しましたロボ、ちなみに、卵の形状、色から推測される転生者の元世界のデータを携帯端末デバイスに送信しておきましたので、確認しておいてくださいねロボ」

 言おうとした言葉を先読みして言われる。まったく、うっとおしいロボだ。まぁ、便利なのはいいことだが。ふむふむ、バールメニアからの転生者ですね。

カイル リクエ バノ 気が付いたのならラクリテア ベニス テム ロムシェいつまでもそんなところにいないでデロマ バノ出てきてください

 最初からどこの世界からの転生者かわかっていれば、言葉もわかるし、相手が喋るのを待つ必要もありませんし、楽ですね。ロボが正式にターミナル職員になる前は喋らない相手には片っ端から「私の言っている意味が解りますか?」って聞いたりしてましたからね。


「マスターの異世界語は流暢ロボね」

「なんですかいきなり」

 バールメニアからの転生者を案内し終え、その後も三人程案内して今日の仕事を一通り終わらせて帰るだけになった時にロボが突然話しかけてきた。

「いえ、まだマスターは若いのになぜそんなに流暢に複数の言語を操れるのか気になっただけですロボ」

「転生してきて暫く、世界中の国を巡っていたから、それだけですよ」

「まぁ、私も転生してきて数日ですが世界中の言語を操れますけどロボ」

「なんです、私を怒らせたいんですか?」

「はい、マスターは感情を表に出すことが少ないので、刺激して感情を引き出してみようかと、感情を抑え込むのはよくないロボですよ」

「余計なお世話です」

 このロボは普段からお節介が過ぎる。昨日だって私はよくジャンクフードを食べているのだが、体に良くないからとこのロボは私が食べようとしていたフライを横取りしたのだ、代わりにと健康にいい料理を作って持ってきたのだ、私はアクラムのフライを食べたかったのに、まぁ、その時はロボが持ってきた料理がとてもおいしかったので許したが、思い返してみればなんだ、随分な反抗ではないか、不本意であるとはいえ、私がマスターなのだぞ、私に逆らうとどうなるか思い知らせてやらなければならないようだ。

「今日もお疲れ様でした、今日の晩御飯はマスターの好きなアクラムのフライですよ。昨日食べようとしていたような体に悪い物とは違いますが」

 まぁ、おせっかいだが、便利なので、また今度にしようか。

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