明日から使えるマル秘心理テクニック 実践編

   

 「お友達になりましょう」


 ミア嬢の両手を優しくつかみ、正面から目を見据えながらニッコリと微笑むのが落とすコツです。彼女はしばらく言われたことが理解できないようで機能停止していましたが、しばらく経つと白い頬を赤くして俯いてしまいました。


 まるでウブな少女が生まれて初めて殿方の告白を受けたかのような反応です。まあ、そうなるように狙ったのですが。もし性別が逆だったらヒモで食っていけるとクラスでも評判の私です。



 「落ち着いて、ミアちゃん。あくまでもタダのお友達ですよ」


 「そ、そうですよね……お友達……初めてです……」



 さりげなく呼び方も「ちゃん」付けに変えて更なる親近感を持たせます。

 それはさておき、ミアちゃんはあまり社交的な方ではないようですね。おとなしめの性格のせいで人の輪に入っていくのが難しいのでしょう。さっきのツッコミ芸をマスターすればお笑い界の頂点を目指せる逸材だと思うのですが。


 まあ、今回に限ってはミアちゃんの友達の少なさはプラスに働きます。早速本題に入るとしましょう。



 「ところで、ミアちゃんや」


 「な、なあに、リコさ……リコちゃん」



 ふふふ、順調に心を許してくれているようですね。良い傾向です。



 「今からミアちゃんのお家に遊びに行ってもいいですか?」


 「え、今から? お父様が許してくれるかしら……?」



 ちぃ、面倒ですね。

 さほど高位ではないと予測してはいますが、相手は貴族。

 子供の友達の身元確認でもされたら厄介なことになるかもしれません。なにせ今は住所不定、無職の身分。ここは多少強引にでも入り込むとしましょう。



 「そうですか、残念ですね。お友達の家に遊びに行ってみたかったんですけど……仕方ないですよね……」



 この時のコツは、いかに本気で落ち込んでいるかを、あくまでも演技と悟らせない範囲でアピールする事。大抵の人間は自分が何気なく口にした言葉で友人を傷付けてしまったと知れば、大なり小なり罪悪感を抱きます。言葉では気にしていない風を装いつつも、雰囲気や細かい仕草でその罪悪感をチクチク刺激してやれば多少の無理は聞いてもらえるものですよ。


 こういう事は対人経験を積めば演技か否かを見分ける目が養われていきますが、私以外に友達のいない内向的な性格のミアちゃんが、今の段階で私の演技を見抜くのはまず不可能でしょう。



 「あ、あの……! リコちゃん、わたしお父様に頼んでみるから!」



 ほら、上手に出来ました。

 表情には出さず、あくまでも心の中だけでニヤリと笑います。



 これで一度「娘の友達」として紹介されれば、あとはなし崩し的に泊まりに持ち込むなど赤子の手をひねるようなもの。


 ミアちゃんやお兄さんのマッチョさんの性格から考えると、二人の親御さんも恐らくは善人でしょうし、あわよくばそのまま食客としてしばらく居座ることもできるかもしれません。



 「私、ミアちゃんとお友達になれて良かったです」


 「そ、そんな風に言われたら照れちゃうよ……」



 まあ、打算が八割ではありますが、私と違って素直な良い子ですし、気に入ったのは本当です。

 いつまでの付き合いになるかはわかりませんが、この世界にいる間は仲良くしておきたいものですね。


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