第10話 勝負の時



 山肌にひるがえる敵軍の旗。


「ざっと見て8000……か。また随分とかき集めてきたものだ」

 隣国とこの国の間には険しい山々が横たわっている。それがこれまで互いの防壁となって、両国に長らく戦端を開かせなかった。

 ところが太田が強引に仕掛けた先日のいくさで、その均衡は破れてしまっていた。


「ノブよ。所詮は烏合の衆なのであろう? おそれる事はないのじゃ!」

 こちらの布陣は城下町より3里の位置。



 大殿亡き後、家臣同士の利権争いを原因とした混乱は思いのほか早くおさまった。なぜなら姫が大殿の跡を継ぐと、声を上げたからである。


 明らかに正当な権利を有する者だ。


 欲に目がくらみ、彼女に逆らった家臣達は大儀のもとに粛清された。おかげで腐敗した家臣派閥は全て潰れ、唯一彼女のもとで戦った山原は、新生家臣団の筆頭となっていた。


 浄化の代償に、この国の戦力は大幅に低下した。

 すぐに集められた戦力は雑兵3000が精一杯で、この国は圧倒的不利な状態で隣国の侵攻を受けなければならなかった。



「(まぁ、まともに戦っても勝てないのは自明だ。やはり時間稼ぎが必要か)」

「ノブ、本当にぬしの策とやらで大丈夫なのかや? 時間を稼げばよいと言うておったが……」

 不安は当然だろう。家臣連中との内戦とは違い、他国との戦はまた別の独特な空気を感じさせるもの。

 まるで知らぬ敵を相手取るのに、惧れおそれを感じないならそいつは愚将だ。


「(……頃合いとしてもこの辺か。さて)」

「姫。今まで黙っており……いたが、別途味方となる勢力を独自に有している。その軍勢が敵のを強襲する故、時間さえ稼げば勝利は確実だ」

 芝居をやめてあえて素で告げる。

 カンのいい彼女にはこの方が時間稼ぎの意味と、それによる勝利の可能性を信じてもらえるはずだ。


「! それがノブの本当の姿なのじゃな。よくも今まで隠してくれよって、覚えておれ。この戦が終わったならただでは済まさぬからの!」

 嬉しそうだ。頬を軽く紅潮させて微笑うわらうこの小さき姫将軍の御旗のもと、軍団は動きはじめる。


「よし、みなのものー!!! こころして聞くがよいッ! ノブが勝利に導く策を施してくれておる! 時間を稼ぐのじゃ! わらわ達の勝利は、その先に待っておるのじゃーーーッ!!」

「「「おぉぉーーーーーーッッ!!!」」」

 その身に対して大きすぎる巨馬の上で万歳をしながら叫ぶ姫に呼応し、兵士達は声を上げる。

 新たなる頂を受け、さらには勝ち目を確信する自信に溢れた一喝は、彼らの士気を一気に高めた。


「全軍ぅ~~~……ッ、突撃なのじゃーーーッッ!!!」





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