第183話 美乃梨との会話
至極真っ当な話のような気もするし安易すぎるような気もするが、大人たちの結論はそういう事になった。
ただ、オヤジの家はオヤジ一人しか住んでいないので、爺ちゃんと婆ちゃんの家に居候する事になった。
まあ、こんなうら若き女子高校生が中年親父の一人暮らしの家に転がり込むよりは、爺ちゃんと婆ちゃんの家の方が見栄えも良いし安心も出来る。
これはもっともな結論だ。
「それにしても、わざわざ転校してまで修行するような事なんかぁ?」
美乃梨の話である程度は状況が理解できたが、僕にはそれだけが転校してきた理由には思えなかった。
「さあ? でも本家のおじさんとかは『元々我が家系は巫女の家系でもあるからのぉ。なので美乃梨の様にお嬢の声を聞ける者が出て来てもあり得ない話ではないんじゃ』とか言ってたから……実は先祖代々伝わる、それなりの修行とかはあるのかも……」
「巫女の家系ねえ……そう言えばオヤジも去年そんな事を言っていたなぁ……」
僕は昨年の夏に田舎に帰った時に我が家系のルーツをオヤジから聞いた事を思い出した。しかし巫女の修行なんて普通は家でやらないだろう……行くなら神職の学校とか神社に行くべきじゃないのか? と僕は美乃梨の話を聞きながらそう思っていた。
「ま、どっちにしろ。私のお父さんやおじさん連中からしたら、お嬢と話ができる事自体が凄い事の様だからあっという間に話が進んだわ」
「なるほどね」
僕は美乃梨の話を聞いてそれなりに納得は出来たが、心のどこかでは「転校までさせるような、たいそうな事なんかぁ?」との思いを払拭できないでいた。
ただ、無意識に魑魅魍魎の類を呼び寄せてしまう美乃梨を田舎に放置するよりは、オヤジや爺ちゃんの傍に置く方が安全だろうという判断は理解できた。
美乃梨自身はもう踏ん切りがついているのか
「でも私は亮ちゃんのお父さんの方が良かったのにな」
とあっけらかんと言った。
「なんで?」
「あの仏間でのお父さんは恰好良かったやん」
「そうかぁ?」
「うん。流石守人やって思ったわ」
「まぁ、軽く蹴散らしよったもんな」
その時僕は金縛り状態で全く動けない状態だった。
「うん。それに一緒に住んでいたらいつでも守人に話を聞けるでしょ?」
美乃梨は案外自分が置かれた状況を楽しんでいるようだ。悲壮感は全く感じられない。
「まぁ、そうやけど……」
「それは爺ちゃんでも一緒やろう?」
「うん。でも『こういう魑魅魍魎の類の処理は一平の叔父さんの方が慣れている』って言っていたわよ」
「そうかもしれんなぁ……」
僕もその話は聞いた事があった。
「ねぇねぇ、亮ちゃんはお父さんから色々教わっているんでしょ?」
と美乃梨は急に思い出したように聞いてきた。
「いや、それほどでもないでぇ……何かあった時だけ教えてくれるって感じかなぁ」
「ええ? そうなんや」
美乃梨は意外そうな表情を見せた。
「うん」
「なんか修行でもしているんかと思ったわ」
「全然、そんな事はないで。でもオヤジは若い頃修行しとったって言うとったなぁ」
「そうなん?」
「うん」
兎に角、全て納得した訳ではないが一応は美乃梨が転校してきた理由が分かった。
が、あとどうしても一つ、美乃梨に確認したい事があった。
「ところで、なんで前もって俺に教えてくれへんかったんや?」
「ああ、それね。亮ちゃんのお爺さんとお父さんの両方から『亮平には内緒にしとけ』って言われたから……」
「なんで?」
「亮ちゃんの驚く顔が見たかったらしい」
何となく予想はしていたが僕に連絡が来なかったのは、やはり年寄り二人のくだらん悪企みのおかげだった。
「見たいって、あの二人は学校におらんだろうが!! どうやって見るんやぁ?!」
「そんな事は知らんわ」
と美乃梨は声を立てて笑った。
そして
「おじさん達の目論見通りだったわね。ちゃんと伝えておかんと……でもまさか同じクラスになるとは思わんかったけど」
と愉快そうに言った。
「そんな事は言わんでええ」
と僕は言ったが、多分話が数倍に膨れ上がって伝わるんだろうなと覚悟はした。
うちの家系はこんな面白そうな話を黙って見過ごす家系ではない事は、うちの二人の年寄りを見ていれば容易に想像はついた。
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