第5話;動かざる証拠

 過去を自白した男の監視、保護が功を奏したと考えるべきなのか、それとも裏目に出てしまったと考えるべきなのか…連続殺人事件は、その後の展開を見せなかった。



(……。)


 最近、佐藤は不安に駆られていた。男を監視しながらも、自分も誰かに監視されている気がしてならないのだ。

 これまでの犯行を考えると、犯人は標的が1人になるタイミングを、数週間掛けて探っていたと思われる。佐藤は、少しでも気を緩めると男が襲われると考えた。いや、ひょっとすると自分が狙われる事も否めない。

 安田の狙いは、男の前に犯人が現れる事だ。その現場さえ押さえる事が出来れば、男が死のうが知った事ではない。

 殺される前に犯人を逮捕したいが、しかし佐藤には自信がない。本心を言えば男の無事など願っていないが、それでも目の前で誰かが殺される事は望んでおらず、自分の力不足で殺されたなら、それはそれで悔しいのだ。



「今日は良いから…。1人にさせてくれ。」

「………。」


 ある日の事。自宅を出た男は、遠くにいる佐藤に近づき、今日の警備は必要ないと訴えた。

 全く男は自分勝手な性格で、警察が保護してくれる事を、当たり前のように考えていた。佐藤をガードマンと勘違いし、それと同時に、自分は偉い身分なのだと振る舞った。


 男には、久し振りに会う友人らとの約束があり、そこに佐藤が付いて来ては、雰囲気が壊れると考えた。


「会う連中は、小学校の同級生だ。例の事件の仲間じゃねぇよ。」


 男は佐藤を煙たがり、彼を追い払おうとした。


「それでも、監視は続けないと駄目です。」

「うるせえな!今日は良いって言ってんだろ!?事件だってこの数ヶ月、何も起こっていないんだ。今日ぐらい、俺を自由にしろよ!?」

「……。」


 全く以って身勝手な言葉だった。このところ平和な日々を送っている男は、そろそろ佐藤の監視が面倒になっていたのだ。


「大体お前ら、俺に嘘をついてただろ?時効がない?はっ!笑わせるな。知り合いに聞いたら、それは違うって教えられたよ。」

「……。」

「お前らがついた嘘は、偽証罪や脅迫罪にもなるとも言ってたな?俺がその気になりゃ、お前を訴える事も出来るんだぞ!?」


 そして、全く以って幼稚な性格だ。男は、誰に聞いたのか佐藤の嘘を知っており、それを材料に、彼を手玉に取ろうとした。

 佐藤は怯えた訳ではないが、腹立たしく思えてきたので要望に従い、今日の監視を止める事にした。彼自身、精神的な休憩が必要だった。




 そして…事件は起こった。

 佐藤を拒んだ男は友人らと夕食を楽しみ、親友だった数名の仲間と近所のスナックで酒を煽った。そして、久し振りの酒と、緊張が解けた開放感で深酔いをし、帰宅途中、街路樹に座り込んでしまったのだ。

 辺りに人気はなく、それを狙って犯人が男の喉元を掻っ切った。一瞬の出来事であった。

 男は街路樹に腰を下ろし、背中を倒して休憩を取った。息苦しさを逃れる為に、顔を上に上げていた。もし男が倒れ寝転んだのなら、事件には発展しなかったかも知れない。

 しかし犯人は、この隙を見逃さなかった。数ヶ月もの間、常に男を監視し、佐藤の警戒から逃れて、この時を待っていたのだ。


 男は断末魔を上げた。酒のせいで血の巡りも早く、激しい出血を伴い、間もなくショック死した。

 時間にして、深夜2時過ぎの出来事…。都合、6人目の被害者が出た。



「待て!!」


 その現場を、30メートルほど離れた場所から目撃した人間がいた。佐藤である。男から監視と保護を断られたが、やはりそこで引き下がる訳にもいかず、いつもより少し遠めの場所で見張っていたのだ。

 完全犯罪を遂行し続けた犯人であったが、痺れを切らしたのか、今日に限って佐藤が遠めで警護を行っていたせいか…初めて目撃者を作った。しかも相手は佐藤…刑事だ。


 佐藤は犯行を目撃した。絶好のチャンスを手に入れたのだ。

 しかし犯人を呼び止めるその声は、叫ぶには早かった。レインコートを着た犯人はその声に気付き、逃走を始めてしまったのだ。

 佐藤は即座に失態に気付き、必死に犯人を追い駆けた。


 犯人はレインコートを死体の上に被せようと、コートを脱いでいる最中に声を聞いた。その為、コートを脱ぎ捨てながらの逃走になったので速度が上がらず、佐藤の接近を許してしまった。

 どうにかコートを脱ぎ終わり、地面に捨てた時点では、佐藤は真後ろにまで迫っていた。

 しかし、それが功を奏した。投げ捨てられたレインコートは佐藤の足に絡み、彼を転倒させる事になった。


 佐藤が起き上がった時には既に、犯人は遠くまで走り去っており、その速度と遠ざかった距離は、追いつけるものではなかった。



(………まさか……。)


 逃亡した男の容姿は170センチほどの背丈で、実際に目で確認したところ、思った以上に痩せこけていた。

 佐藤はその後ろ姿を、他の誰かと重ねた。


 犯人を取り逃した佐藤だが、しかし彼には収穫があった。

 コートに足を取られて転んだ佐藤はその時、犯人の首元を掴もうとしていた。転んでしまった拍子に手は犯人のうなじを掠め、掠めた手の爪は、犯人を引っ掻いていた。

 爪の間に、犯人の皮膚が詰まったのである。




 次の日、早速佐藤は吉田に事情聴取をした。安田がそうさせた。

 内定も受け、卒業を控えた吉田は卒論などで忙しくあったが、潔白を晴らそうと時間を作り、自らが警察へと出向いた。


「事件でも、起こりましたか?」

「………。」


 警察署で出会うなり、まだ公表もされていない昨晩の事件の話を持ち出した吉田を、佐藤は怪しいと思った。そして挨拶もままならないまま、彼の首元を確認した。

 しかし吉田の首元には、引っ掻かれた傷跡がない。


(…………。)

「どうしたんですか?佐藤さん?」

「………あっ、いや…何でもない……。」


 出会い頭に後ろを向かされた吉田の声は、不思議がっていた。とても、演技しているような素振りには見えない。

 次に佐藤は吉田をその場に立たせたまま、少し遠めから後姿を確認し、昨日見た犯人とは体型が違っている事を確認した。元々痩せ型の吉田だが、昨日の男に比べて、体格が少しだけふっくらしていた。

 吉田と比べて分かった事だが、佐藤が昨晩に間近まで近づいた男は、正常ではないほどに痩せこけていた。


 佐藤は混乱し始めた。昨日の追跡から今の今まで、吉田を犯人だと考えていた。しかし実際に目で見た2つの違いを否定出来ない。

 今朝の内にDNA鑑定へと送られた犯人の皮膚には、血も少し付着していた。首元に付けた傷は深いはずのだ。そんな傷が、昨日の深夜に付けた傷が、今日の昼間には治っているはずはない。

 特殊メイクの可能性も考えたが、吉田の首元をどれだけ擦っても、メイクが剥がれるような事はなかった。


 しかし一連の確認を終えた後、佐藤は混乱から少し落ち着き、そして安心もした。今日、何の為に呼び出されたのかも知らず、首元を入念に確認した自分を不思議そうに見る吉田を、佐藤は、どうしても悪人と思う事が出来なかった。


 しかし、安田は佐藤の見解も聞かず吉田の口腔内細胞を採取し、それをDNA鑑定に送った。


「おい、吉田。お前は昨日の深夜、何処で何をしていた?」

「えっ?昨日ですか?昨日はずっと…家で論文を書いてました。卒業論文…。」

「アルバイトはどうした?」

「バイトは最近、少し数を減らしました。大学も4回の後期を迎えて学費を払う必要がなくなったのと、卒業や就職の準備も忙しくなったので、毎日のようには行ってません。」

「……。」


 アリバイを確認した安田は、吉田の返事に少し戸惑った。佐藤が感じたように安田もこの時、余りにも自然体な吉田の態度が腑に落ちなかった。

 彼の、何食わぬ態度が余りにも、自分達が持つ緊張感と合わないのだ。


 DNAが採取されたのである。これまで演技を続けていたとしてもDNAの採取をされたとあっては、流石の犯人も動揺するはずなのだ。

 しかし吉田は、ついた嘘に怯える様子もなければ、何故DNAを採取されたのかも分からないと言う表情をしている。昨日のアリバイに関してもそうだ。彼が本当に犯人なら、もっと都合た良いように作って良いものを、犯行を疑われかねない証言をした。


 この日、安田と佐藤はDNA鑑定の目的を告げずに、そのまま吉田を帰す事にした。



 そして1週間後…。

 吉田が逮捕された。大学で講義を受けている最中、礼状を持ち込んだ安田と佐藤に逮捕された。

 その際は吉田も流石に抵抗したが、安田の迫力と、暴力にも似たやり方には争う事も出来ず、冷たい手錠を掛けられた。

 講義は、彼を良く知る大学教授が行っていた。周囲の学生らが冷たい視線を吉田に浴びせる中、教授は警察に抵抗し、必死に彼の無罪を主張した。


「DNAが、犯人の物と一致した!それが理由だ!」


 安田は教授に冷たく言い放った。それを聞かされた教授は、時間が止まったようにその場で立ち尽くした。

 学生の中には吉田と親しく、彼を信じている者も多くいたが、安田の言葉に、そこにいた全ての学生がどよめきの声を上げた。


 そして吉田は、留置場へと送還された。そこでも彼は、引き続き無罪を主張した。

 しかし佐藤の爪から採取した真犯人の皮膚と、吉田の口腔内から採取した細胞のDNAは一致した。

 それだけで警察は、吉田の主張を聞く必要がなくなった。


「……。」


 しかし佐藤にはどうしても、この事が納得出来なかった。鑑定の結果が腑に落ちないのだ。

 彼が犯人に付けた傷は、相当深いものだった。しかし次の日の吉田の首元には、傷1つ残っていなかったのだ。そして主観的な見解にはなるのだが、追った犯人の後姿と吉田のそれは、やはり違うものであると考えた。


 ともあれ、警察側は吉田の逮捕を以って、事件は解決に進むと考えた。後は吉田のアリバイを崩し、自白を待つのみであった。そして犯行がグループに因るものであったならば、共犯者までをも白状させるだけなのだ。



 しかしこの逮捕劇は、マスコミに公表される事はなかった。警察には作戦があった。吉田が起こしたと思われる連続殺人事件には、やはり共犯者がいると考えた。今の段階で吉田の逮捕を公表してしまうと、共犯者が逃亡する恐れがあるのだ。

 その為、警察は吉田を留置場には入れたものの拘置所には送還せず、また、吉田を拘束するものの、ある程度の自由を与える事にした。吉田の携帯電話に、共犯者からの連絡が来ると判断したのだ。逆に言えば吉田の携帯電話を音信不通にすると、それだけで共犯者が何かに感付くかも知れないのだ。


 警察がこの作戦を立てた後、安田と佐藤は上司に呼び出された。彼らは吉田を逮捕する際、授業中に足を踏み入れた。2人の行動は、作戦を台無しにしてしまう可能性があった。特に、その場にいた大学教授は共犯者と考えられている。今回の作戦が水の泡になるかも知れない。安田の短気な性格が、裏目に出てしまったのだ。



「しかし先輩、吉田の携帯には怪しい電話が、1件も来ないですね…。」


 この日も、佐藤は吉田の側で彼を監視し、携帯電話に来る連絡を記録していた。

 吉田を留置場に入れて、数日が経っていた。しかし彼の携帯電話へは犯行へと繋がる、共犯者からのものと思われる連絡は来ない。

 掛かって来た連絡と言えば、大学の同級生、そして彼の安否を気にしたバイト先の従業員からのものしかなく、通話の内容も怪しいものではなかった。吉田は、バイト先には事故を起こして入院したと伝え、長期の休みを貰う事にした。安田の指示であった。バイト先も、吉田がシフトの数を減らしていたので対応は難しくなかった。

 吉田は、この嘘に積極的に対応した。神経が衰弱していたものの、それでも自分の潔白を証明しようと、警察が求める指示を全て受け入れた。


「まぁ、待て。事件が起きると、次の事件までは、短くとも2週間は掛かった。最近は、マスコミも騒いだから事件が起こる間隔も長くなっていた。共犯者からの連絡も、そんな直ぐには来ないだろう。」


 安田は血の気が多く、少々乱暴な性格をしているのだが、じっと待つ事の忍耐力は人並み以上で、刑事として必要な場面で、必要な行動を取れる男であった。


 佐藤は安田のそんな一面を見て、改めて感心をしたが、どうしても1つ、心に引っ掛かる事があった。

 それはやはり、DNA鑑定の結果だ。佐藤は吉田の体格と、彼の首元に傷痕がなかった事を確認していたので、どうしても結果が納得出来ないのだ。

 吉田にも、怪しい電話は掛かって来ない。佐藤の思いは、日に日に強くなっていった。

 留置場と言う束縛された場所に捕らわれているにも関わらず、捜査に協力する吉田の態度も彼を悩ませた。

 このような事を安田に言えば、彼から『まだ若い』と言われそうな気がするので口には出せなかったが、佐藤はどうしてもこの事が頭の中を回り、落ち着く事が出来ずにいた。


「DNA鑑定で、吉田が殺人犯だと分かったんだ。何も、そんなに焦る事はない。きっと尻尾を出すさ。」


 気持ちを読み取ったのか、安田が、焦る佐藤にそう語る。

 佐藤はこの機会にと、自分の疑問を打ち明ける事にした。


「でも安田さん、吉田は、自分が見る限り犯人とは少し違うところがあります。犯人は、吉田以上に痩せこけていました。病気じゃないか?って思うほどでした。そして何よりも、私が犯人に付けた首元の傷が、吉田には…」

「お前の主観的な判断はどうだって良いんだ。お前は、余りにも吉田に肩入れし過ぎている。冷静な目を持てないようじゃ、刑事としてやって行けんぞ?」


 佐藤が、自分の中にある引っ掛かりを全て話す前に安田は大声でそれを遮り、佐藤に忠告をした。

 佐藤は、確かに自分は吉田に好印象を抱いており、それが犯人と吉田を重ねられない理由なのか?と自分に問ってみたが、百歩譲って体格を見間違えたとしても、首元の傷は、科学的に見て納得が行かない。


(……まさか安田さん……!?)


 佐藤は、1つの推理をした。

 安田は、歳の割には昔風の男だ。仕事のやり方が時として暴力的で、強引な手口も何度か使用していた。誰かを犯人だと嗅ぎつけば、それを信じて揺るがなかった。

 そして佐藤は、昔の警察や検察が容疑者を犯人に仕上げる為に、証拠の隠滅や操作をしていた事を知っていた。

 昔に行っていた習慣が、今は全くないと言えるだろうか?少なくとも今の時代でも検察は、不利になる証拠を裁判に提出しないやり方を、テクニックとして活用している。

 佐藤は今の時代でも、裁判における平等は有り得ない事を知っていた。


 佐藤は、自分の推理が正解だったのなら、吉田への対応はどうするのかを気にした。DNAのすり替えをしたとしても、流石に、無理からの自白をさせる事は出来ないはずなのだ。


「鑑定の結果は絶対なんだ…。動かざる証拠…。それは、吉田も知っているはずだ。後は、俺達と吉田の忍耐力勝負だ。奴が自白するまで、こっちはじっと待ってれば良いんだ。吉田が根負けした時、全ての事実は奴の口から語られるさ。」

「……。」


 佐藤は、安田の口から出た、最後の言葉が気になった。



 そして次の日、佐藤は事件の担当から外された。上からの指示としては、新しい事件が起こったのでそちらの捜査を頼むとの事であったが、彼はこの指示に不服を感じた。

 安田が話していた事も気になる。安田は、いや、この課の全ての刑事がDNA鑑定の結果を塗り替え、無理から吉田を犯人に仕上げているのでは?と思ったのだ。

 安田は憧れの先輩であり、彼から学んだ事は多い。しかし今回の事件に関しては、彼の無茶振りが目に余った気がしていた。


『犯人は嘘をつこうとする。だが、それに耳を傾ける必要はない。こっちの推理や証拠を信じろ。それを真実と考え、犯人に迫るんだ。そうすれば犯人は、必ず自白する。犯人を取り調べる時は、相手の話を聞くな。自分が出した結論を信じて、それを押し付けるんだ。』

(………。)


 佐藤は、課に配属された時に聞かされた、安田の教訓を思い出した。

 佐藤は、有望な刑事になると期待されている。その為、敏腕刑事である安田と共に仕事をさせ、彼から多くを学んで欲しいと言う願いが上司にはある。

 佐藤も期待に答えて仕事をしているが、最初に安田から教わった教えが、今では彼を信じられない材料にしていた。




 警察は、吉田の自白に時間を掛けていた。吉田は一連の事件全てに無罪を主張した。

 吉田の忍耐力には、警察も困り果てていた。DNAは犯人の物と一致したのだが、それ以外の物的証拠は、何1つ入手出来なかった。

 吉田からの自白だけが、彼を法廷へと引き摺り出せる手段であった。


 単独犯の可能性も考え、警察は吉田の、成立しているアリバイ崩しにも躍起になったが、それを崩す材料を揃える事が出来なかった。

 4つ目の事件当時、吉田は自宅であるワンルームマンションにおり、それは佐藤とマスコミが確認していた。1つ目と3つ目の事件、そしてホームセンターでレインコートを購入した時、吉田は大学や養護施設に足を運んでおり、共に時間を過したと言う証言者が多くいた。警察はこれを崩せなかった。

 やはり事件は、グループによる犯行だったと考えざるを得なかった。



 結局吉田は、留置場で1ヶ月ほどの時間を過した。この時期には、一般的には拘置所へと送還し、検察へ身柄を渡さなければならないのだが、吉田を利用して全ての事件の解決、つまり共犯者を芋づる式に捕らえたい警察は特別な許可を申請し、吉田を無期限で留置場に拘束する事にした。

 吉田の神経は、もう、底にまで達していた。

 それでも彼は、自分の無罪を主張し続けた。



「安田さん!大変です!」


 そしてその頃、7つ目の殺人事件が発生した。被害者はこれまでと同じく40代前後の男で、とある町の一角で、バーを経営していた。

 男は、そのバーで殺害された。犯行時間や現場の状況などは、2つ目の事件と同様だった。客足が全て去った後、店の片付けをしていた男は何者かによって、喉元を切り裂かれた。

 バーは閑静な住宅地の一角にあり、事件当時、周辺には誰もいなかったと言う。今回の事件でも、犯人や怪しい人間を見たと言う目撃者を、探し出す事が出来なかったのだ。


 しかしこの事件で、警察は驚くべきものを発見した。いや、そうさせられた。

 今回の事件では2つ目の事件と同じくレインコートは発見されなかったのだが、代わりに、バーカウンターの上に置手紙が残されていた。その手紙は直筆で書かれたもので、犯人が直接書き残した物と思われる。

 そしてその内容は、単純ながらも警察を当惑させた。


「犯人は、吉田一哉ではない。無駄な捜索はするな。」

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