第28話 青汁恨み詩
「修理に最低でも3週間かかりますって言われて……」
足元から冷える1月の下旬。彼女はマフラーに口元を埋めながら、唸るように言った。
卒論執筆の為に、実家から父親のおさがりのノートPCを持って帰って来た彼女だったが、キーボード部分に青汁をこぼしてしまったらしい。
「まず、どうして青汁なんぞ……」と言う私の一声に、
「朝ごはん食べないなら、せめて飲みなさいって言われて」と彼女は困った顔をしていた。
「3週間かあ。とても待ってられないし、かといって大学のパソコンもなあ」
「水だったら、ドライヤーで乾かせばなんとかなる場合もあるけど……」
「青汁は駄目?」
「うん…コーヒーでも駄目だから……青汁は…駄目だわ」
絶望的だ。
「あぁ。お金ないのに、時間もないのに……文字が打てないとパソコンの意味ないよ、もぉ」
「キーボードが使えないだけ?」
「そうなの。マウスでネットはギリギリできる。検索とかは無理だけど」
「あーなら修理出さなくても使えるかも」
「え、本当!」
彼女の表情が一気に明るくなった。
それから少しばかり彼女に、説明をしてから、家電量販店へ行き、一番安い外付けのキーボードを買った。
そして。その日の夕方、「 [パソコン使えるようになった! ありがとう助かった!] 」と彼女からメールが来た。
年始に私が危惧していた通り、私も彼女も大学へ行く機会は減り、その分バージニアで会う回数も減った。
彼女はメールでも会話と言うものをしない人だった。だから、彼女から要件のないメールは来なかった。
「 [次、学校いつ行く?] 」
幾度となく送信した文言。
それは、彼女に会いたい私の気持ちの表れであった。
やがてそれは回を重ねるごとに、虚無感へ、そして、苛立ちへと変わっていった。
求め続けることの辛さと求められたい願望と……
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