第17話 スターマイン
私達にとっては全てが最後だった。最後の前期試験、最後の夏休み、そして最後の文化祭。そんな風に考えてみると、感慨深い。
だが、今の私には現在進行形で彼女が傍らに居ればそれで充分だった。最後の文化祭でさえも、彼女と会う口実でしかなかった。
バージニアの閉店時間の関係で早く裏門に着き過ぎた私達は、時間を潰すために正門まで歩いた。
正門で後夜祭で行われるビンゴ大会のカードを受け取り、依然として後片付けに奔走する学生たちの目立つ、学内を歩いた。
「どうせなら、よく見えるところがいいよね」
「でも、初見じゃ難しいよな」
案の定、特等席と思われる本館や部室棟の屋上は定員規制で入ることができず、その他も軒並み人でごった返していた。
初めての悲しさか、行動の全てが後手後手に回っているようにさえ思えた。
ここにきて、[最後]と言う想いが強くなった。だから少しでもいい場所を探して頑なに歩き回ったが結果は一緒で、
「もうここでいいよ、どこもいっぱいだし」
焦っていた私はそんな彼女の一言で、我に返った。
「なんかごめん」とりあえず謝った。
そして、「また移動するの?」と唇を尖らせる彼女を無視して、私は本館と委員会棟との間にある非常階段へ向かった。
付属図書館が真正面にあるからだろう、人は少なかった。
4階へ続く階段の途中で腰を下ろした私達は、人混みが増してゆく中庭を見ていた。
「こっちに来て、花火大会行かなかったなあ」
「人にうんざりするだけだって」
「でも1回くらいは行っても良かったと思う」
「さっさと実家に帰るからだろ」冗談半分、嫌み半分に私がそう言うと、彼女は少し間をあけてから。
「それは後悔してる。特に今年は」と小さく呟くように言ってから、「約束があれば残ったのに」と言った。
「言ってくれれば、誘ったのに、帰るって言うから」私は弁解するようにいうより仕方がなかった。事実なのである。
「約束してれば、ゼミの飲み会だってBBQだって行かなかった」
「え?」
「それが私の言いたかったこと」
彼女が何を言っていたのかわからなかった。私は束の間考えた。
そして理解した。
「なら、言ってくれないとわからない。こっちは、ゼミの方を優先したかったんだと思ったし、夏休みだって先に帰るって言われたら、後から誘えないからさ」
感情は込めず、言葉を選んで単純に私は伝えた。
「ゼミは付き合いもあるし、夏休みもこっちだと1人だったし……」
彼女はすぐに返事をしたが、途中で口ごもってしまった。
「エスパーじゃないから、ちゃんと言ってくれないとわからないよ。正直、断られるのも怖かったし」
本心で言えば後者がそれだった。
「断るも断らないもまず話してよ。この前も私が聞かないと感想言ってくれなかったじゃない」
「ちょっ待って、感想って何?何のこと?」
「料理のこと。感想言うでしょ普通……」
彼女が顔を上げた。そこには以前言い争った時のような憤怒の色は見当たらなかった。
「それは……美味しくなかったら2回もおかわりしないよ。それで伝わると思った……言うタイミングを逃したのもあるけど……」
「それじゃわからない。伝わらない……」
「それはこっちも同じことだろ。はっきり言ってくれなきゃわからない」
思えば私も彼女も、譲らないところがあった。何度か同じような平行線をたどったことがあったが、お互いに争いたくない気持ちが作用したのか、無意識に落としどころを探って回避してきた。
居心地の悪い空気が漂う中、後夜祭がはじまった。
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