異層世界決戦 ―霊器をその手に―

(ば、ばあちゃんか!?)


 そうばあちゃんに返答しながら、俺は黒鬼の攻撃をかわした。

 奴の攻撃には容赦がない。

 巨大な棍棒を、片手で軽々振り回して、全て渾身の一撃で俺に降り下ろす。

 あんなん、一発でも食らったらアウトやん。


(なんや龍彦―――あんたまだ『霊器』出してなかったんか―――? そら―――苦労してるやろ―――)


 仰る通り、防戦一方や。


 ―――ってゆーか、『霊器』ってなんやねん。


(なぁ……ばあちゃん、ひとつ聞くけどな)


(龍彦―――あんた―――襲われながら念話出来る様になるやなんて―――随分と成長したんやな―――。うちは嬉しいで―――)


(……いや、この際ばあちゃんが喜んでるとか、今はえーから)


 こんなに緊迫した状況やのに!

 こんなに圧倒的不利やのに!

 ってゆーか、命の危機やのに!


 人間、慣れって恐ろしいなー……。

 ばあちゃんのペースに苦もなく対応できてる俺がおる。


(なんや―――つれない子やな―――。それで―――? 何が聞きたいんや―――?)


(あんな、今『霊器』とか言ーたけど、それ……何なん?)


 ―――ドゴッ!


 その間にも、黒鬼の容赦ない攻撃は続いてる。

 あれだけ巨大で、あれだけ威力のある棍棒を振り回してるっちゅーのに、奴は全く疲れた様子もない。

 涼しい顔で、いや、無表情で黙々と俺を潰しにかかってくる!

 こっちはっちゅーと、実は奴の攻撃をかわすんで精一杯やった。

 そんな中でも、ばあちゃんとの会話は続く。


(あれ―――? 『霊器』の説明はもーしたやろ―――?)


(はぁ!? ……いや、『霊器』に関しての修行なんかつけてもらってないよ?)


(いーや―――話はしたよ―――)


 ―――ブンッ!


 黒鬼は降り下ろし攻撃に、凪ぎ払い攻撃も加えてきた!

 縦の攻撃に横の動きが加わるだけで、途端にかわすんが難しくなる。

 降り下ろしには横に飛び退くサイドステップでかわして、凪ぎ払いが来たら後ろに退いてかわすスウェーバックで避ける。


(いつ……いや、もーそんなん良ーわ。それよりその『霊器』って何やねん)


(『霊器』はな―――霊力で武具を具現化した物やで―――)


 ……ん? そのフレーズ、確かに聞いたことあるな……?



 ―――地脈の力は強いだけやないで―――。色んな風に使えるんや―――。身体能力の向上は勿論やし―――武器とか補助具何かの具現化も出来るんや―――……。



 ああ……あの時か……。

 確かにそんな事言ーてたな……。


 ビャクと初めて会った夜、ばあちゃんの部屋で地脈について簡単に説明を受けた時に、何かそんな話が出てたな。

 あん時は冒頭さわりしか触れてないし、その後も何か有耶無耶になったしなー……。


「うぉおおおおっ!」


 黒鬼が急に怒声を上げた。

 けどそれは、攻撃が当たらん苛立ちとかに対してやなく、気合いを入れる為の物に近かった。

 そして直後に繰り出された攻撃は、上下左右あらゆる角度から繰り出される無数の攻撃が、まるで一度に襲いかかってきたみたいな錯覚を受けるほどの連撃やった!

 流石にこれはかわせん!

 俺は一か八か、腕に霊気を溜める様なイメージを描いて、盾のようにして顔の前を両腕でガードした!


 ―――ガツッ!


 腕に走る衝撃はかなりのものやったけど、腕が折れたっちゅーほどやなかった。

 俺が思った通り、化身の攻撃は霊気で防御出来るみたいや!

 でも体格差から来る圧力までは防げんかった。

 今度は俺が防御姿勢のまま遥か後方に吹っ飛ばされて、神社周辺を取り囲む玉垣たまがきに激突した!

 瞬間的に霊気を背中に集中したお陰でダメージは殆どなかったのが救いや。

 霊気がガードに有効なんは初めて知ったけど、霊気を体の一部に集める修行をしてた成果が出た感じや。


(へ―――龍彦―――。あんた意外に器用やな―――)


(ばあちゃん……孫のピンチにえらいのんびりやなー。こっちはゆーほど余裕無いで)


 実際今の攻撃が俺の防御力を上回ってたら、俺は即座に死んでたやろなー。

 ……嫌やなー……死にたないなー……。


(龍彦―――今の要領やで―――。修行でしたみたいに―――今の要領で霊気を1箇所に集中して―――溜めた霊気が武具になる様な想像をするんやで―――。それが『霊器』を造り出す方法や―――。後はあんたの発想次第やな―――)


(解った! やってみるわ!)


 ―――造り出すんはイメージ。どんな武器にするかはアイデアっちゅーことか。


 追撃を仕掛けてきた黒鬼は、俺が体の前で手を翳した事で動きを止めた。

 僅かでも様子を伺ってくれてるお陰で、俺は霊気を集めるんに集中出来る!


(『霊器』を造り出すんは―――尋常やない量の霊気と―――それを維持する集中力が要んでー)


 高まる集中力に、ばあちゃんの声は遠くから聞こえてるように小さくなった。


 そして俺の右手に、霊気が凝縮され出したんや!

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