神様の悩み相談室

 ―――あれ……おかしいな……。確かに俺、部屋で眠った筈なんやけど……。


 白一色の、広ささえ認識出来へん程だだっ広いと思われる空間。

 いや、その表現もおかしい。

 無限空間かも知れんし、実は六畳一間位の広さかもわからん。

 全く凹凸おうとつも陰影も、染み一つ無い空間なんやから。

 ここには、前に一回だけ来たことがある。


 ―――フリュークス。


 ばあちゃんは“竜洞界”言ーてたか。

 多分時代によって、呼び方も違うちゃうんやろな。

 各地にある地脈の属性によって、その在り方がそれぞれ変化する世界や。

 んで、目の前におる何や艶っぽい格好した、めっちゃべっぴん美人なお姉さんが、


 ―――リューヒ。


 こう見えて、世にある地脈と言ー地脈の全てを管理してる、絶対神……らしい。


 しかし……これが利伽の言ーてた、“ヒラヒラでフリフリ”か……。

 基本の見た目は、ビャクの格好に近い。

 肩までしかない巫女服からは、細く健康的な二の腕がニョッキリ生えてて、ムチムチの太ももを露にした緋袴。

 これだけでも、十二分にヒラヒラでフリフリや。

 それに加えてリューヒは、七色に輝く羽衣みたいな物を纏い、腰の後ろで縛ってる帯の余りが2メートル位の長さで二本、フヨフヨと宙をさ迷ってた。

 頭には、俺が見ても立派と思える角が二本。

 それだけやったらこの間来た時にも見てる。

 けど今回は、見た事も無いような程美しい蓮華の花が耳元に添えられてる。

 同じ様な蓮華の花は腰にも添えられてて、リューヒの妖艶な美しさを一層引き立ててた。


「それで―――龍彦チン―――。今日は―――何で来たん―――?」


 相変わらずリューヒはその美しさとか威厳を無視した、間延びした話し方で俺に問いかけてきた。

 っちゅわれても、俺かて何でフリュークスに来てもーたんか、全く見当がつかんかった。


「……!」


 口を開いて喋ろうとして、声が出ーへん事に気付いた。

 そーやった……此処では“念話”が基本やった。


「いや……何で来てもーたんか、俺にも良ーわからへんねん……」


 確か俺は、心身共に疲れて、自分の部屋のベッドで眠った筈や。

 そん時は何も考えてへんかったけど、ひょっとして無意識にこのフリュークスへのアクセスを念じてもーたんかな?


「も―――違うちゃうやんか―――。そこは『電車でー』とか―――『飛行機でー』って―――|言わなアカンやん―――」


 ……あれ……? ……デジャブ……?

 

 俺は困惑した顔で呆けてると、リューヒは小さな咳払いを一つついた。


「……それで―――龍彦チンは―――何でこの世界に来てもーたんか―――自分でも―――良ーわからへんのやね―――?」


 うわっ! この人、さっきのやり取り無かった事にしよーおもてる!

 ……あれ、やっぱり前にもおんなじ事してるやんな?

 俺達……てか、龍彦チンて何やねん……。


「まあ―――今の貴方達は―――この世界と―――繋がりやすーなってるから―――ちょっとした心身の不安定で―――此処に迷い込んでまうーなんて―――良ーある事やねんで―――」


 そうなんか……。

 確かに今の俺は、不安定っちゅーたら、この上なく不安定やわなー……。


「それで―――どうしたん―――? お姉さんが―――相談に―――乗ったろか―――?」


 ……この人、本当にほんまに神様かいな?

 けど、その申し出は有り難かった。

 全くの第三者……って訳やないけど、関係の薄い人にやったら今の気持ちを話すことは出来る。

 こんな女々しい、愚痴みたいな事やから、尚更親しい知人には話しにくいからな……。


「……ちょっと、愚痴っぽくなんねんけど……」





 そして俺は、リューヒに自分の気持ちをありのまま話した。

 ちぐはぐで、主観的で、支離滅裂な俺の言葉を、リューヒは表情も変えんと、ただ時おり「そうなんや―――」とだけ相槌を打って聞いてくれた。

 一通り話終えて、自分が何を言ーてたんか気付いた。

 殆ど利伽への想いだけやんけ!

 その途端、俺の顔は真っ赤になった……と思う。

 この世界で、俺の顔が赤くなるんかどうか解らんけどな。

 そんな俺を優しい眼差しで見つめるリューヒは、やっぱり間延びした優しい口調で話し出した。


「龍彦チンは―――利伽チンを―――信じたいんやね―――」


 サラリと確信を突かれて、俺は大きく動揺した。

 何だかんだ言ってる俺やけど、結局利伽を、そして利伽と過ごしてきた今までの自分を信じたかっただけやったんや。

 そして、そう言って欲しかったんやな。


 心に渦巻いてたわだかまりが、随分と軽ーなった気がした。

 考えてみれば今日の俺は、状況に振り回されとっただけやった。


「なんや……気持ちが軽ーなりましたわ……本当にほんまおおきに」


 改めてお礼を言ーと、なんや照れてしもた。

 

「フフフ―――……若いって―――良えなー―――羨ましいわ―――」


「何言ーてますのん。リューヒさんかて、まだまだ若いですやん」


 見た目で言えば、リューヒは二十代半ば……いや、前半かと思うくらい若く見える。

 声にも張りがあるし、当然そのナイスバディも……。


「嫌やわ―――龍彦チン―――こう見えてうち―――億越えてるんやで―――」


「お……っ!」


 絶句した……。

 そらもー、絶句しまくりました。


 この世界に来て、目の前でリューヒ本人にそんなん言われて、それでもシレッと言葉を続けられる人類がおったら、そらもー是非ともお会いしてみたい程や……。


「ところでな―――龍彦チン―――。実は―――話さなアカン事が―――あるんやけど―――……」


 俺がフリーズしたことで丁度話題転換にタイミングが良かったんか、リューヒが改まって話してきた。


「悪い話と―――かなり悪い話―――それから―――めっちゃ悪い話―――どれからが良え―――?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る