座学1 地脈の影響

「あんた等―――安心しーや―――。五分もしたら―――立てるようになるからね―――」


 ばあちゃんは俺等を、いつもの笑顔でそう声を掛けてきた。

 でもそれに答える声は、俺も含めて無かった。


 別に拗ねて、返事せーへんかった訳やない。

 それは今の俺達がどんな状態か、見れば一目瞭然や。

 俺達は文字通り、指一本、声一句出されへんかったんや……。

 そして、ばあちゃんの言ーた事は本当ほんまや。

 五分と経たずに、俺等はある程度回復するやろう。


 ばあちゃんの作った、地脈を利用した結界は大したもんや。

 中の音を外に洩らさんだけやなく、霊気と体力の回復も急激に行いよる……。

 つまり、へばっては疲れて起こされ、倒れては立たされる。

 これを延々繰り返されるんや……。


 ―――殺せー! 一思いに、もー殺せー!


 なんて思っても、冗談でも口には出来ん。

 マジで殺されかねんからな。

 冗談は抜きにしても、この結界のお陰で通常より何倍も修行が捗るんは本当ほんまや。


「……しかし……こんな……結界……誰が……考えてん……」


 言ーてるしりから体が動かせる様になった俺は、荒い息を抑えながらなんとか体を起こしてその場に座り込んだ。

 利伽りかも動き出した。

 ビャクは……ピクリとも動かへん。


「これかー? これはうちの傑作やでー」


 ……やっぱりばあちゃんか……。

 俺と利伽は視線を交わして、呆れ混じりの苦笑を浮かべた。

 こんな拷問みたいな結界、ばあちゃんならではやで……。


「今は拷問みたいにしんどいかも知れんけどな―――後々あとあと有り難みを実感出来るんやで―――」


 で、相変わらず俺の心を読んでくるし……。


「ま―――今日の修行はここまでにしといたるわ―――。ここからは座学の時間やで―――」


 まだ動くまでに回復してない俺達は、首だけをばあちゃんに向けた。

 ばあちゃんの修行は、動かれへんよーなるまでしごいて、その後話を聞かせるのが一連の流れやった。


「今日は地脈についてやな―――。地脈には凄まじいエネルギーが流れてる―――っちゅー風に理解してると思うけどな―――……あれは嘘やで―――」


 はぁ……はあ!? このばあちゃんは何を言い出すんや!?

 地脈の力は確かに合った!

 俺と利伽も、それで一時的に凄い力を得た!

 今もこの結界は地脈の力を利用してるんやろが!

 しかし残念ながら、そう思っても言い返すだけの気力が戻ってへん。


「今―――日本中に張り巡らされてる地脈には―――殆ど霊気は流れてないんやで―――。なんでか解るか―――?」


 単純に考えたら、涸渇した……っちゅーんが一番シックリ来るんやけど……霊気とかって限りがあるんか?


「そやな―――川でも温泉でも―――涌き出て来んよーになったら―――普通は渇れたって思うわな―――」


 だからその、俺の思考を読むんは止めー! っちゅーねん!


「せやけどハズレやで―――。地脈が湧き出す霊気に容量なんか無いから限界もないし―――使いすぎたとか言ー事もないんや―――」


 別の理由か……。

 後は、穴……つまりは霊穴を塞いだとか地脈を絶ち切ったとかになるんやろなー。


「理由はうち等“封印師”の存在や―――。世界に何人も居る封印師が―――霊穴を塞いだからなんやで―――」


「そうなん……か……そらーさぞかし……地元の“コネクター”は難儀してるやろなー……」


 これ以上心を読まれるんも腹立つし、俺は力を振り絞ってばあちゃんの言葉に相槌を打った。


「別に―――。多分日本全国―――世界各国の地脈接続師は―――そんな困ってないんちゃうかな―――? 困ってるんは―――そこに住む一般の人達やからな―――」


「はぁ!? ……なんで……?」


 地脈の力が簡単に使われへん事で、コネクターが化身に対するんに弊害が出るんやったら解るけど、なんでそんな事関係ない一般人が迷惑するんや?


「地脈の力は大地の力―――。地脈通う所―――繁栄あり―――なんやで―――。つまり―――地脈が流れんよーになって―――その上とか―――近くにある街や村―――……国単位やろか―――? 被害こうむってるやろな―――」


 そうかー……そらー難儀やなー……。


 って、ええー!? 街!? 村!? 国ぃー!?


 確か……地脈って……。


「でも……おばあちゃん。地脈って……世界中に……張り巡らされてるんよね?」


 ようやく喋れるまでに回復した利伽が、話に加わってきた。

 利伽の言ー通り、霊気が通る道“地脈”は世界中を血管みたいに張り巡っとる。つまり……。


「そやで―――。まー間違いなく―――世界的な情勢の不安定さは―――地脈を塞き止めてるうち等―――地脈接続師の責任せいやね―――」


 そう言い切ったばあちゃんは、楽しそうに可笑しそうにコロコロと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る