化身、捕捉
でも不思議なもんで、何年も山の中を廻って結構細かいとこまで山の事は把握してるつもりやったのに、いざこうやって走ると今自分が何処に居るかも解らんよーになってくる。
(……でも―――この数十年―――ウチが封印師になってから―――化身なんてこの山に気付きもせんかったのにな―――……。封印の力が弱まってるんやろか―――……年取ったんかな―――……)
驚いたんは、こうやって動いてる時でも念話での会話は飛び込んでくる。
口に出さんでやり取り出来るんは有り難いけど、ツッコミ満載の独り言……止めてくれんかな……。
(あはは……おばあちゃん、まだまだ若いですよ……)
で、利伽は律儀に相槌を打ってる。
しかも若いて……。
(……確かに若いけど、そら見た目だけの話や。もう九十のばあちゃんやで……)
(……龍彦―――……何やて―――……)
心の中でツッこんだだけのはずが、ウッカリ念話に流れてもーた……。
まだまだこれの使い方は難しいな……。
(いや、ばあちゃんは若いよ! そらー若い! 何やったら、昭和天皇より若いで!)
(当たり前や―――! だいたい、もう崩御されとるやないか―――!)
(見つけたで!)
俺とばあちゃんの下らん掛け合いを、丁度えー塩梅に利伽の念話が止めてくれた。
(何やて!? 何処や!?)
しかし小さい山っちゅーても、そうそう一足飛びで合流出来る広さやない。
だいたい、今利伽がどの辺におるんかも解らん。
(……何処って……えーっと……)
周りは似たような景色の山の中。
場所を聞かれても、明確に言える訳がない。
(だいたい、八代神社の南東斜面を五十メートル下った所! 不知火山方面に移動中!)
そんなにハッキリ解るんかい! 凄いな!
改めて俺は、利伽が高い能力の持ち主やと舌を巻いた。
(あかんで―――利伽ちゃん―――。龍彦はそんなんゆーても―――全然理解出来へんねんから―――)
いや、全くその通り。
ってゆーても、今ここでそんなんバラさんでもえーやんか……。
(……そうやね……どーしよ?)
利伽もすんなり受け入れよった……。
まー流石は幼馴染み、俺の事を良くご存知で。
(意識を相手に向けるようにしてみ―――。山全体の立体的な地図を想像して―――相手の方に意識を向けたら―――だいたいの位置は解るはずやで―――)
そんな事も出来るんか!? 俺は言われた通りに試してみた。
―――それは何とも不思議な感じやった……。
視覚は間違いなく見たものを認識してるのに、頭の中では二つの御山を航空写真で写したような全体図が展開されてる。
その図に二ヶ所、赤と青の光点が発せられてた。
(解った! これか!)
(それや―――!)
(私にも見えたわ!)
ばあちゃんの相槌はともかく、俺達は互いの場所を認識できた。
恐らくこの青い点が俺や。
とゆー事は、赤い点が利伽やな。
(すぐにそっちへ行くわ!)
(解った! 待ってる!)
俺は利伽に念話でそう告げて、一気に山の斜面を駆け登った。
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