第2話 夏待ち


 窓をたたく 横なぐりの雨

 空を引き裂く 一筋の閃光せんこう

 梅雨を絵に描いたような 薄暗い昼下がり


 脚立きゃたつに乗って

 ワードローブの上段に手を伸ばす


 一年ぶりの対面となる衣装ボックス

 薄らと積もる 白いほこり


 ふたを開けると見覚えのある浴衣ゆかた

 薄い紫色の地に色とりどりの紫陽花あじさいの花

 閃光に促されるようによみがえった あのときの記憶


 三年前 花火大会のために買った お気に入りの浴衣

 二時間 歩きまわったすえに選んだのは 最初に見た浴衣


「その柄 すごく似合うよ」


 迷っていたボクの背中を押したのはキミの一言


 六月になると雨の日が続く

 そんな季節を嫌う人もいる


 でも ボクはそう思わない

 雨の季節が来たのは夏が近づいている証拠だから


 目を閉じるとあのときの情景が再生される


 夜空に咲いた 色とりどりの花

 最後まで離さなかった 温かな手

 ボクだけに向けられた 優しい眼差し


 すべてが永遠に続くものだと思っていた


 今年も甘くて酸っぱい季節がやってくる

 ボクは自分のことを「夏女」と言い続ける


 あのときのボクに近づきたくて



 RAY

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