夢幻紀行

0日目『ある日、私は夢を見た。』

　ある日、私は夢を見た。それは、とても綺麗な夢だったので、私はじっと眺めていた。このまま永久に続けばいいのになあと思っていたのだが、少しするとすっかり消え失せてしまい、いつもの朝を迎えていた。

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　またある日、私は夢を見た。それは、とても残酷な夢だったので、私は慌てて逃げ出そうとした。一旦目覚め、また新しい夢を見たいなあと思っていたのだが、いやに長い間世界は続き、それでもやがて消え失せ、いつもの朝を迎えていた。

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　またある日、私は夢を見た。それは、とても楽しい夢だったので、私は住人と手を繋ぎ、一つの輪になって踊った。こんな時間がいつまでも続けばいいのになあと思っていたのだが、いつの間にか皆ちぎれてなくなってしまい、いつもの朝を迎えていた。

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　またある日、私は夢を見た。それは、とても悲しい夢だったので、私は両手を覆って泣き喚いた。これでも現実よりはいいのかなあと思っていたのだが、気づけば泣きすぎて視界がぐちゃぐちゃになってしまい、いつもの朝を迎えていた。

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　私はただ、夢を見るために生きている。

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　夢を見るために、死んだ現実を生きている。

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　私の望みは……。

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　私はある日、望みを叶える方法をひらめいた。次夢見た時に、それをやってみることにした。

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　そしてある日、私は夢を見た。それは、とても短い夢だったので、私は何も出来ず、何も考えられず、いつもの朝を迎えていた。

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　……。

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　その日を境に、私は夢を見なくなった。どうしてだろうか。……いや、答えは判っていた。死んだ私が無意識にする、最後の抵抗だったのだ。

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　時計の針は、私を無視してくるくると周り続けていた。何周したのか数えるのにも飽きた頃、私は決心した。

　死んだ現実に生きる、死んだ私を殺そうと。

　全ての用意を整え、最後の晩餐みたいな気持ちで寝床に入った。

　しかしその日、私はついに夢を見た。

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　それが、どんな夢なのかを知る時間は私にはなかった。ひたすらに目を閉じ、安寧を感じようとした。ただひたすらに――。

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　また、私は夢を見た。夢の中で夢を見ていた。私はまた目を閉じた。今度は苦労せずに夢を見た。夢の中で夢を見て、その中でまた夢を見た。またその中で夢を見て、その中で夢を見る夢を見て、また目を閉じて夢を見て夢を見てその中で夢を見て夢を見てまた夢を見て夢を見て夢を見て夢を見て夢を見て夢を見て夢を見る夢を見て夢を見ない夢を見て夢を見て夢を見て夢を見て……。

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　ある日、私は夢を見た。それは、綺麗だったり、残酷だったり、楽しかったり、悲しかったり、するような夢だった。とても、不安定な夢だった。けれど、私は幸せだった。もう二度とあの死んだ現実に戻らなくていいし、戻れもしないのだなあと思っていたのだが、あのいつもの朝を迎えることもないのだと気づき、何故か少し悲しくなった。