27:天才と凡人

(……なにあの威力? いまの魔法も習い始めてたった一週間の昴が放ったっていうの? そんな馬鹿な。いくらなんでも無茶苦茶でしょ――)


「いまの見ました!? 見ましたよね!? キサキ様!!」

 呆然としていると、マリアが駆け寄ってきた。彼女は興奮しきった様子で、大げさに身振り手振りを交えて話しかけてきた。


「いまの『火炎弾ファイアーボルト』はランクDの魔法、しかし、スバル様は類まれなる才能と魔力の量にモノを言わせてランクBの『火炎陣バーストフレア』に匹敵する威力を叩き出しましたよ!? なんなんですかスバル様って、学問にしても体術にしても、教えたものの習得力が半端ないですよ!? 元の世界でも全てにおいてこんなに非凡な才能を発揮されていたんですか!?」

「うん。彼はなんでもできるぱーふぇくとな男なのよ。勝手に宿敵なんて思ってごめんなさい、私はあなたの足元にも及ばない凡人でした……」

「何言ってんの?」

 歩み寄ってきた昴に頭を下げると、彼は怪訝そうな顔をした。

 あれだけの高レベルな魔法を使ったというのに息も乱さず、平然としている。

 マリアが言っていた通り、昴が持つ魔力量は半端ではないらしい。


 それは『女神の右眼』の加護が多少あるとしても、何より大きいのは彼自身の天性の才能だそうだ。


(ふ……しょせん、凡人は天才には敵わないということか)

 しかも、彼が優れているのは体力や魔力の面だけではない。

 容姿でもそう。


『檻』の中の住人には能力が働かないので目を合わせても平気だし、トレーニングには邪魔だからと彼は長すぎる前髪を切った。

 ついでに髪も整えたのだが、改めて見るとはっきりと美形だった。


 漆黒の髪に瞳、そして右眼は輝く青。

 その左右非対称な瞳が強烈な印象を与える。

 端正な相貌に、一ヶ月の修行の甲斐あってか、均整の取れた細い身体。

 希咲は作られた美少女だが、彼は天然の美少年だ。

 ありとあらゆる面で神の寵愛を受けたとしか思えない。


「私はあんたを同じ人類だなんて認めない」

 きっぱりと告げる。


「だから、なんの話だよ。仕方ないだろ、できるからできるだけで」

 しれっと放たれた言葉に、ついに堪忍袋の緒が切れた。

 泣きながら立ち上がり、彼の胸倉を掴んで上下に激しく揺さぶる。


「その飄々とした態度がムカつくのよお私はせめて剣の腕だけでもあんたに勝つために死に物狂いで修行に励んだのにあんなにあっさり負かしておいてえええ!! しょせん天才に凡人の苦労はわかんないのよ元の世界でだって私がどれだけ頑張ったか知らないくせにあんたはいっつも涼しい顔で私の上を行きやがってぇぇぇ!! あんたばっかり才能に満ち溢れてずるいわよお天が二物も三物も与えたんなら1つくらい私に寄越しなさいよぉぉ!!」


「ちょ、くる、しっ、」

「キサキ様、いけません! 止めてくださいっ!?」

「止めないわよっ! こいつのせいで私のプライドはずたずたなんだからうわああん!!」


「首に手をかけては駄目ですっ、殺す気ですかっ!? ああっ、スバル様が無反応にっ!? スバル様しっかりっ!? 気を確かに持ってぇぇ!!」

 マリアに力ずくで引き剥がされるまで、希咲は泣き喚いたのだった。

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