盗作の末路

秋口峻砂

一 起

 自分がどれだけの書き手なのかと問われたとしたら、ぐっと胸を張れるほどの実績も実力もないと応えるしかない。

 ただ、だから書き記してきた作品に対して何の思い入れもないのかといえばそうではない。どんなに拙い作品であれ、その時の自分自身を詰め込み書き上げてきたのだから、それらは自分の分身ですらある。

 例えば、自分の娘が誘拐され陵辱されたとしたら、その誘拐犯を赦すことができるだろうか。

 少なくとも、私には絶対に無理だ。

 そして書き手にとって盗作されるということは、少なくともそういう意味合いにも近いものだと思う。

 これから記す物語はあくまでフィクションだが、実際に私が経験したことを基にしている。きっとその事件を知っている方々が読めば、その事件についてすぐ思い至ると思う。

 私はこの事件について、本当は記すつもりがなかった。だが最近になって、あの事件が私にもたらした結果と、私に与えた深い傷、彼の末路について、きちんと記すべきだと感じた。

 これは例えどういった理由であれ、盗作という行為をしている方々への警告でもある。

 どうか、この物語が些少なりともその抑止となることを願う。

 また、当時の彼とのやり取りにおいて、私を励まし続けてくれた書き手の仲間達、そしてどういった意味合いであれ助力してくれた某巨大掲示板の盗作スレの皆さんに、改めて深く感謝したい。

 あなた達に支えられたからこそ、戦い抜くことができた。本当に、本当にありがとう。



「なんだ、これは」

 私の小説仲間に粘着するその人物の言葉は、あまりにも幼稚で子供じみていて、何とも呆れてしまうようなものばかりだった。

 彼個人の主張についてどうこう論じるつもりはない。それは彼の自由だからだ。

 だがそれとは別に、私の友人への犯罪と断じてもよいような粘着行為や、自分と考えの違う者達への中傷行為など、彼の行動はとにかく周囲へ迷惑をかけ続けるものばかりだった。

 私との接点ができたのも、私が友人への粘着行為を注意したことがきっかけであり、以前には彼の個人ブログで私も中傷行為を受けた。

 ただひたすら迷惑で腹立たしいことではあったものの、この物語においてそれらは副次的な要素に過ぎないことから、ここでは省かせていただく。

 ある日、彼に粘着されていた友人が私に送ってきたメールには、私の処女作である「傭兵戦記」が、あるテキスト有料配信サイトにて有料配信されているということが記されていた。本来ならば友人も、作者である私が有料販売を始めたと考えるのだろうが、粗筋のページに私ではないと判断するに十分すぎることが記されていた。

 そこには私の筆名を騙りながら、同時に友人に粘着していた彼の住所氏名等の個人情報が記してあり、「僕は総理大臣になる」という馬鹿げたことが書いてあった。

 どう贔屓目に見ても道化だった。つまり、何も知らない人間からは、私も道化のように思われるという意味だった。

 それを見た瞬間、血が沸騰するかと思うほどの怒りが湧き上がったのを覚えている。

 処女作である以上、それが酷く拙く、そして歪な作品であることは明白だった。当時、想いの丈を全て注ぎ込んだ作品であるとはいえ、完成度なんて高が知れていた。

 それでも、それを応募した文学賞で頂いた言葉が、真剣に作家を目指そうと決意したきっかけであり、拙いながらもとても大切な作品であることに変わりはなかった。

 それを盗作された。その上に名を騙られ、総理大臣を目指している変人とされてしまったのだ。

 私は少なくとも、どういった形であれ彼も書き手であるはずと思っていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。

「絶対に潰してやる」

 妻がすぐ側にいたというのに、思わず口を突いて出た言葉は、自分でも驚くほど恐ろしく汚いものだった。だがそれが本心だった。

 きっと鬼のような顔をしていたのだろう。妻が訝しげに眉を寄せ、私の顔を覗き込む。

「どうしたの」

「盗作された」

「えっ、どういう意味、それ」

 ただ普通に作品を書いている分には、盗作の被害に遭うことなんてまずありはしない。書き手としての最低限度の矜持がある人間にとって、盗作は自己否定に等しいはずだ。その行為自体が、自分自身を蔑んでいることになる。その程度のことは理解できて当然であるはずだ。

 例外として、まだ歳若く精神的に未熟という場合もあるが、それはあくまでも年齢的なものであり例外だろう。

 法と責任の意味を知り、自分の行動がもたらす結果というものを理解しているのならば、盗作という行為は犯罪だと知っているはずだ。

 妻としても、まさか私が盗作の被害に遭うとは考えたことがなかったからの言葉だろうし、私自身も考えたことがなかった。

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