第811話「策を弄するなば目にものみよ」

 追い込まれ、後がない。

 時間のながれはみな平等であるというのに、この一分一秒は無限に感じられる。

 人間嫌なもの、すぐに終わってほしい時間程長く感じられるものである。


 この自分にとって絶望的な状況は見ようによっては好機である。

 その体躯に似合わず奇抜な動きを見せる腰の曲がった年老いた獣人が低い体勢から杖を突きあげ、ルナの顎をかすめるぎりぎりで空を切る。

 そのままバランスを崩す老獣人は盛大に足払いをする動きのまま転倒をする形御なるが、止まっているのならば余裕をもって躱すこともできる。


 年端もいかない少女の手にはナイフが握られている。

 その影にはその少女の弟だろうか、とても刃物など持ったことがあるとは思えない握りの甘さで刃物を握りしめている。

 操られようが、物理的にできない事もある。

 

 同情でも誘おうというのならばこれほど策として有効だとはおもえない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る