第721話「失われた晩餐前夜」

 一同が沈黙する。

 このまま、どれだけ優れた人間だろうと想定の範囲外の出来事が起こった後というのは思考が乱れる。

 その時間が短いか長いかの違いはあれど例外はないという。


 生きていて尚且つ思考しているのだから、その物事について捨て置くことができない。

 しかしながら、今のスミレはこの限りではなかった。

 殴られたことへの原因の追及などしていない。


 咄嗟に頭をよぎったのは目的を盲目的に熟そうとしていた事への恐怖心であった。

 人である以上人を恨むこともあるだろう。

 だが、年月が経つたびにそれは強くなることもあれば、はたまた薄れゆくこともある。


 それが今では我を失うほど、一種の自我の喪失を招くほどまでに至っていた。

 気づくことができたのは偶然助けを求めたからなのか。

 それとも、ここまで全ての事がバニティーの思惑なのだろうか。


 わからない。

 今はアマトの胸の中でぐったりとしている。

 人のぬくもりを感じたのは何年ぶりの事だろうか。


 母を失い、父には見限られたと思っていた。

 だが、理由はわからないがバニティーは一人の人間として自分の事を見ている。

 そして、このタイミングで介入している者がいる。

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