第389話「他愛もない一言を謳えば」
それよりも気休めかもしれないが、スペラの状態を早く回復させるためにも手の込んだ食事をさせたい。
訓練させるにしても疲労困憊では得られるであろう成果と報酬が割に合わなくなる。
尤避けなければならないことの一つが効率、即ち時間を失うという事である。
今なら、時間に携わる能力を得てから実感する。
実際にその身に宿る力を実感しなければ重要だと気付かないのだから、俺はまだ幼い子供なのだ。
たかが20年足らずの人生など生まれて間もない子供と大差などありはしない。
それに気がつくこともなく大人なのだと錯覚して成長を止めてしまえば死ぬまで未熟なまま、元いた国の愚かな政治家のような末路を辿ることになるしかない。
自分が稚拙極まりない親の七光りで虎の威光でなんとなく生きている金の亡者が大半を占めていた国で、生まれ育った俺は危機感だけは持ち合わせている。
火をおこし料理の支度を始めたユイナを横目に彼女にそれが当てはまるのだろうかと思いつつも、トータルでは俺の二倍ほど人生を経験している事への盲目の崇敬がある。
一度死を経験してなおも生きることを淡々とやってのけることが、どれほど尊く儚いことなのだろうかなどと考えれば止まない。
「調味料をそろえたいところだが、材料がな……。コンビニでもあれば……なんて、ない物ねだりなんてしてられないよな」
「いつの間にか24時間買い物できるようになって余計に便利になったよね。首都に行けばずっと開いてるお店もあるのかな」
「そうか……。そうだな。首都ってくらいだから、あり得るな。それまで我慢しなければならないのはこの際しょうがないか」
どうもユイナと俺との間には元の世界に関するずれがある。それはわかっていたのだが、並行世界であるからなのか。単に時系列の話なのかは確かめるすべがない。
コンビニが24時間営業になったのなんて俺の生まれる前の話なのだから、下手をしたら浦島効果のように元の世界に戻ったら数百年が経過していたって事にもなりかねない。
他愛無い会話の一言でこうも焦るほど未練があるのだと思うと胸が苦しくなった。
それをユイナは見逃さない。
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