第156話「雨の跡」
数刻もすれば辺りの建物はすべて濁流に飲み込まれて住居があったなど思いもしない光景に変わってしまうだろう。残りわずかの辛うじて原型を留めている建物を見てユイナは思った。
恐らく辿り浮くころには診療所も無くなってしまっていると思わざる負えなかった。
だが、突如上空を覆っていた分厚い雲がはじけ飛び夕日が空を紅く染め上げたのだ。
水中にでもいるかのように激しく降り続いていた雨もぴたりと降り止む。
(ルナがやってくれたんだ)
ユイナはルナが想像していたよりもずっと優れていることに、誇らしさと尊敬の念を覚えた。仲間としての信頼も確かに感じていた。
自分の力の無さを思い知ったからこそ、素直に力ある者に対しては敬う事ができる。それが自分自身の成長に繋がると理解しているからである。
雨が降り止んだからといって尋常でないほど降り注いだ雨の爪痕はすぐには消えはしない。それは今もなおユイナに襲い掛かる濁流が証明している。
それでも徐々に水量は減っているのは一目瞭然。
このまま進み続ければ、確実にスペラ達の元へたどり着ける。それだけはわかっているつもりだった。 それなのに、安心感が得られないのは偏に元凶を絶ったはずのルナが戻ってこないからだ。もちろん先にスペラ達の元へと行った可能性も皆無ではないが、果たして先に戻るだろうか。
ならば、考えられるのはまだ状況は何も変わってないという事だ。
恐らくそれを解決する為になおも状況を継続している。それはルナでなければ対処が難しいのだろう。
歯がゆい。
結局何もできないのだから。
それだけを思いつつスペラ達の元へと向かう歩を早めるのであった。
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