第148話「幕間Ⅻ~とある人形のカタルシス」

 人の形をした者。

 それを人は人形と呼んだ。

 この世界にも人の形を模した木彫りの木偶人形というものがある。


 そして、言うまでもないが人形は人により創り出された魂無き創作物に過ぎない。

 それは世界が違えど全世界共通の事柄として疑う余地などないはずだった。

 しかし、どこの世界にも奇妙な迷信。不思議な現象。奇怪な伝聞もとい伝承が存在している。


 木は切られても死なず生きているだとか、屁理屈の派内ではない。

 挿し木をして増えていくからと言って、一個体としての存在意義を人の精神と同様の定義で求められるかというと哲学の分野では意見が割れるところではあるが霊魂論では否だ。

 

 分裂して個体を増やす生物は五万といるが、あくまでも生命体としての根本的な性質でありそれは繁殖の結果が同一の個体だった結果に他ならない。

 しかし、創作物が意識を覚醒させるという事はあり得ないはずなのだ。


 科学、自然、魔術、魔法、神術、仙術、秘術などでは作り出せない魂を手に入れることなど出来はしない。

 もしも、それが成されたならば奇跡としかいいようがない。


 それを行えるものもまた奇跡を司る者だという事はここではっきりする。

 誰も成せぬことをやってのければそれは言うまでもなく神の所業。

 その恩恵を受けたものもある意味神と同等の存在であると言えるだろう。


 少女の形をした人形。

 近づき目を凝らして見なければ人形であるとは思えない程、美しく精工につくられている造形美に魅了されそうな人形。

 

 衣服を一切身に着けていない為に人形であることが露わになっている。

 関節は球状になっている為ほぼ360度自由自在に動かせる程自由度は高いがそれは人間でないことの証明になることはいうまでもない。


 肌は木目が視認できないように何らかの手段を用いて色白の肌を思わせるコーティングが成されている。

 顔立ちも少女のそれなのだが木製の為に表情を変えることもない。


 髪は黄金に煌いているように見えるが光が仕込む窓辺で照らされると薄らと透けているのがわかる。

 ピアノ線のようにも見えるがこれはルカウェンの糸だ。


 マダガスカルに生息するジョロウグモはある時期にだけ金色の糸を出すのだが、ルカウェンもまた数千年の内に不定期に金色の特殊な糸を作り出す。

 本来は魔力を一切持たないはずがその時だけ莫大な魔力を含み、ありとあらゆる栄養分を含んだ強力な糸を出す。 

 

 その価値は一国の財源をも超えるとされていた。

 それほど高価な糸をふんだんに使われた人形には、もはや値段などつけようはずもない。

 ただの人形ならまだしも。


 カタ


 カタ


 カタ


 人形は生まれたばかりの赤ん坊のようによちよちと前に這い出す。

 音の出どころは自らが動く為に発した者ではなく身体が、床に当たって鳴った音であり人間同様に身体を動かす為に音は発しない。

 

 それは駆動部分が超精密機械同様の仕様だという事を意味する。

 緩衝材を当てているから音が鳴らない通りはない。

 粗悪な作りであればどれほど高級な素材を使っていようと活かされることなどありはしない。


 少女の姿をした人形は声帯などあるはずもないのに声を発する。

 誰にも聞こえないか細い声で確かに声を発したのだ。

 それは美しく、そして儚く、この世の全てを呪うかのように恨んでいるかのように。


「見つけた」



 

 




 


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