第79話「幕間Ⅳ」

 谷底深くに新たな命が芽吹く気配があった。

 誰が何のために大地を割ったのかはごく一部の者だけが知っている。

 しかし、その者達もその副産物としてできた地下の深くの絶縁地帯に命が芽吹くなどとは思ってはいなかった……。


 思っていなかったのではない。思う必要などなかったのだ。

 なぜなら、この世界の全てのありとあらゆる命を滅ぼさんとしているのだから。仮に何らかの事象が結果として命を生やしたとしても、近い将来完全に消し去ることが決まっているというのなら必ずしも今すぐに消し去るという発想にはならない。


 それほどまでに絶大な力を持つ者によって築かれた谷もまた強力な力を持った生命体を生み出す礎となったのだ。それでもその生み出された生命体は特殊だった。

 何故なら、生命体だというのに肉体を持ち合わせていなかったのだ。


 それでも、その命はやはり他種族よりも畏敬だった。空気中に漂う原子を少しずつ集め肉体を形成していく。そのもととなったのは異世界のイメージ。そう彼女もまた、異世界からこの世界にやって来た転生者だった。


 異世界から元の姿のまま召喚されたわけでもなく、ハーフエルフとなって生まれたわけでもなく、超自然的に魂のままこの世界にやってきてその魂を強力なあらゆる合わせ技と言うべき異能によって一度は完全に消滅させられてしまった。


 それを持ち前の知識と根性で全く別の生命体へと生まれ変わったのだ。

 強いていうなれば、他者の力を利用して進化と転生を行ったのだ。


 残念なのは肉体を得たことにより、物理的干渉が起こり地上へと昇ることができなくなってしまったのだ。元の世界でもひときわおっちょこちょいなのが珠に瑕だった。


 彼女の目的は元の世界へ戻ることではない……。何故なら自ら命を絶ったのだから……。

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