第35話「機動兵器との攻防」

 ロボットアニメのド定番、巨大人型起動兵器が俺達の前に立ちふさがる。

 スリムで継ぎ接ぎがなくごつごつしたゴーレムとも違う。

 頭部は突起物は特になくゴーグルを着用したテルテル坊主ようで、どこを見ているのかまるで分らない。

 

 周りの建物はせいぜい3階建てで教会の陰にひそめる程度の大きさ。

 それでも立ち上がれば20m近くにはなるのではいだろうか。

 ざっと、俺達の10倍以上の高さはあり、森で遭遇したゴーレムでさえ巨大に感じたが目の前のそれは比較するのもおこがましい。


 味方ならば心強いだろうが、好戦的な雰囲気を醸し出している。

 それを裏付けるように足元には血だまりが広がり肉塊へと姿を変えた者達が、かすかにうめき声を上げている。


「町長さん、まさかとは思うがあれが町の守りの要ってことはないよな?」


「私も初めて見ました。あれが何なのかすらわかりませんよ……」


「だよな……」


「アマト?」


「アーニャ?」


「わかってる!! わかってるが……」


 巨人がこちらを補足すると、次の瞬間には猛スピードで走ってくる。

 

「みんな、逃げろ!!」


 ユイナとライオット、町長は右へ、スペラとダタラは左へ跳躍し避ける。

 俺は一人で巨人に突っ込み、足首にガルファールで斬りかかるがはじき返される。

 僅かに切っ先が通ったが、重量と衝撃の方が圧倒的に勝っている。


 生身でやりあうのは無謀だとわかっていても、生き残る為にはやるしかない。

 幸いにも巨人の標的は周りの誰でもなく俺一人へと定まったようだ。

 反転して再び俺目がけて走ってくると思いきや、背中に手を回すとライフルを構える。


 剣と銃では相性云々の問題ではなく銃の方が有利だろう。

 こちらが達人級の腕の持ち主や、今まで出会ったとんでも能力者であれば話は変わってくるが、言うまでもなく素人。


 撃たれる前に喫茶店の入り口に飛び込む。

 つい先ほどいたところに、容赦なく銃弾が撃ち込まれる。

 4、5発撃ったところでリロードそして、すぐに俺の隠れたところへと向きを変えて速射。

 

 喫茶店だったところも道もあっという間に吹き飛んでしまった。

 俺は喫茶店の裏口を蹴り破って、店から裏路地に出たことで下敷きにも粉みじんにもならずに済んだ。

 後ろには今通ってきた喫茶店の廃墟があるが、目の前にはオークが2匹うろついている。


 『オーク レベル41』備考:打撃耐性 ランクE


 初めてファンタジーの定番モンスターに遭遇したような気がした。

 地茶色の肌に牙をむき出しにした豚顔。

 斧と盾を装備してまさに漫画やゲームに出てくるオークと言ったところだ。


 だが、俺はこんな奴らに余っているれるほど暇じゃない。

 まだ、こちらの動きに対応しきれていない一匹を後ろから鎧ごと切り捨てると、次の標的に標的を切り替える。

 甘かったようだ。なんなく斧で受け止められてしまった。

 

 不意を突いた一匹とは違い、正面から馬鹿正直に振り下ろしただけでは受け止められてもしょうがない。

 しかし、確かな手ごたえを感じていた。

 さっきの巨人への一撃でも確かにダメージを与える事が出来た。

 ならば、斧という武器に対しても耐久面で深手を負わせることも可能。

 

 粗末な武器ならば、まずは武器を破壊してしまった方、隙を狙って相対するよりも断然早い。 

 

「時間をかけるつもりはないんだよ!! 砕け散れ!!」


 ガルファールのみねの部分を斧に叩き付ける。

 この時に意識して行ったのは、インパクトの瞬間に全エネルギーを集中させること。

 これは、どのスポーツでも実際に行われている事だ。


 例えば野球ならば、バッターがボールを打つ瞬間、一点に力を加える。

 ゴルフなら、クラブがのヘッドがボールに当たる瞬間。


 そのあとに生まれるエネルギーなど必要ない。

 この瞬間には斧は砕けているのだから。


「驚いているているところ悪いが、終わりだ」

  

 手持無沙汰になっているオークの頭を撥ね飛ばす。 

 後始末などするはずもなく失った時間を取り戻すように踵を返す。

 すぐに二つ先の建物の裏口を蹴り破る。

 

 ここは、花屋のようだ。花々が香しいが見とれている暇もない。

 表通りには相変わらず、巨人が銃撃の構えを取っている。

 しかし、俺がここに隠れていることはわからないようだ。


 わかっていたら、何かしらのアクションがあると考えられるが追撃はない。

 

 みんなとはぐれてしまったのは辛いが、恐らく近くの建物から移動はしていないだろう。

 連絡できれば、安全な場所へ移動しろと伝えるがそれはできない。

 今できることは、一人であれを長時間拘束若しくは破壊の二択。  

 

 俺が逃げれば、誰かが危険にさらされる。

 一番生存率が高い俺が何とかしないと、恐らく対処は不可能。

 幸か不幸か人感センサーの類は積んでいないようで、俺の存在を見つけられていない。

 俺が死んだと判断したのか、構えたままみんなが逃げ込んだであろう建物へと反転する。


 撃たれたら終わりだが、敢えて向きを変えるまで待った。

 ゆっくり物陰に隠れて近づき足首に魔力を込めた一撃を放つ。


烈風瞬刃波れっぷうしゅんじんは!!」


 巨人は銃の発射のタイミングで右足を取られた為に、銃弾は明後日の方向へ5発撃ち放ちその反動で天を仰ぐように転倒する。

 右足首の中間地点まで刃が通ったが、切り落とすことは出来なかった。

 

 動きは非常に素早いが、銃は相当反動があるようで発射時には必ず止まって構えを取り、必ず5発撃ち終えてからカートリッジを交換していた。

 その隙を突くしか方法はなかった。

 

 足周りは見た感じ、瓦礫の破片で傷ついていたことから材質自体はそれほどよくはない。

 量産機の一体ではないかと勝手に予想していた。

 裏を返せばまだまだわんさかいることを意味するのだが。


 それでも、ガルファールが業物の刀でなければ刃が通らなかっただろう。

 やはり生身で戦う類の敵ではない。

 転倒した巨人はまるで人間のようにうつ伏せに反転し、立ち上がろうとする。

 

 巨人は自動で動いているのか、中に人が乗っているのかわからないが動きそのものはまさに人のそれ。

 今なら上段からの一振りが放てる。

 

「月、極まりて燕、天より地に落つれば静寂帰す……。『月極燕落とし』」

 

 二度ダメージを与えたところへ円を描く一撃を叩き込む。

 半分ほどまで切っ先が入っていたこともあり、右足首を切り落とすことに成功した。

 それでも、なんとか立ち上がろうとする巨人。


 しかし、踏み込むことができずに膝をつく。

 

「左足も切り落としてやる!!」


 上段から勢いをつけて振り下ろそうとした瞬間ライフルを左脇で固定する。

 

(まずい。後ろは見えてないはずだろ!!)


 脇に挟んだまま振り返らず、5発を乱射される。

 俺は射程範囲外に飛び退く為、風を足に纏い建物が立ち並ぶ方向へ跳躍した。

 すると、最後の一発は俺とは反対方向に向かって放たれていた。

 

 もしも、俺が飛び退くのが反対側だったら間違いなく木端微塵に吹き飛ばされていただろう。

 あれは、勘で撃ったのではないだろうか。

 理由としては弱いが人が乗っているのではないだろうかと思うほど、臨機応変に対応してくる。


 再びリロードするかと思いきや、立ち上がると両足の小型バーニアでバランスを取り機体制御を行い体制を立て直す。

 背中のバックパックが突然羽のように開くと6つノズルが出現する。

 

 スラスタから青い炎が噴き出しはじめる。

 一呼吸するころにはブースト全開で吹かせたように爆音が響き、一直線に地面を滑るように町の東に向かっていく退路を取っていた。

 

 行く手を阻む建物をもタックルでそのまま破壊すると、両腕のブースターを落下させさらにバーニアから炎を吹き出し瞬く間に姿を消した。


 生身の人間だからと温存していたのか、エネルギーがすでに限界に達していたのかわからないがあのままやりあっていたら勝てたなんて考えには至らなかった。

 ただの移動手段のつもりでも、間近でバーニアなど焚かれたら一瞬で焼かれてしまう。


 結果的に生き残ることができて一安心だ。

 すぐにみんなを探し出さなければならない。

 目の前の脅威が一つ減っただけで、なおも町は阿鼻叫喚の渦の中にあるのだから。

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