第7章 レオの章 パートⅠ

ギルタブ「アクベンス。よく来た。しかし、来るのが遅すぎたようだ。事態は終息した」

ギルタブはアクベンスを作戦指令所に迎え入れた。

アクベンスはサンガスの指示を受け、一足早くギルタブに接触していた。

アクベンス「ギルタブ殿下、何が起きていたのでしょうか?」

アクベンスはギルタブの間に置かれている地図を眺めながら、事態の状況を把握しようと務める。ギルタブも考えあぐねているようだ。

ギルタブ「自然のものとは、違う。中心に操るものがいた。そう予測はしている」

ギルタブは、精霊の反乱が起きた中心部を突きながらアクベンスに答えた。

アクベンス「あのような巨大な精霊の反乱を引き起こす軍隊が中心にいると言うのですか」

それならば、もっと早く予兆に気がついたはず、何処の国から軍隊が押し寄せて来たというのだ。

まさか、隣国ヌンキが攻めてきたとでも・・・最近、そのような予兆があるという知らせは一切なかったというのに、何故この時期に。

ギルタブ「アクベンス。お前が来たということは、シャウラも兄と合流しているのだな。直ちに城に引き返すよう務めよ。事は深刻だ。兄に伝えた後、お父上ジュバ国王へ、この書状を届けよ。2つ町が消滅した。私は兄と中央へ向かう」

アクベンスは深く敬礼し、書状を受け取った後、近衛兵のマントを翻しながら早足で馬に乗り込み早馬を駆った。

2つも町が消滅したのか、こんなにも強力な精霊使いとは一体、何を企んでいる。

アクベンスの早馬は一刻でサンガスの元に到着し、状況報告を済ませた。

アクベンス「シャウラ王女!ご一緒に城へ。この書状を国王へ届けるようにと」

アクベンスはシャウラ王女には状況報告はせず、とにかく一大事のため城へ書状を届ける務めを受けたと話だけ済ませ、馬を駆るように急がせた。

シャウラ王女「アクベンス、私にも教えよ。何故精霊は静まった」

シャウラ王女の関心事は、事態が何故、終息したのかという点だ。私にはそれが答えられない。

アクベンス「申し訳ございません。状況はまだ掴めておりません。現状の報告を済ませ・・・」

アクベンスが話をしている途中でシャウラ王女は馬を駆るのを止め、方向を兵団の方へ向けた。

シャウラ王女「ならば、城へは行かぬ」

アクベンスの馬もまた前足を大きく上げ、方向を翻した。

アクベンス「なりません!今は書状を・・」

シャウラ王女「状況がわからぬまま引き返すなど出来るか!」

アクベンスが乗る馬の方が早く、シャウラ王女の駆る馬の前に躍り出た。

アクベンス「シャウラ王女!城に危険が迫っているやもしれません。近衛兵団である我々が城を空けていたとあっては、もしものことがあったとしたら離れていた罪を問われかねません!もし、今回の事態がヌンキ国の軍隊によるものだとしたら・・・」

シャウラ王女は、また馬を翻し、城へ向け駆け出した。

シャウラ王女「すまない。アクベンス。急ごう・・・」

アクベンス「御意に」

シャウラ王女が、行動的なのも困り者だな。今までは良いように働いていたが、これからは少し注意が必要だ。今後も、この私にシャウラ王女を抑えておくことが出来るだろうか。

シャウラ王女とアクベンスが荒廃した西の町から城へと辿る荒野の道のりを暫く走らせていると、前方より一頭の馬が駆け寄ってくる。辺りは人気のない森の道で、太陽はようやく西に傾く頃合いである。

アルレシャ「シャウラ王女、アクベンス殿。王様より言付けを受けてまえりました」

馬に乗ったまま、アルレシャはシャウラ王女とアクベンスに話しかける。

嫌な予感が的中したのか、この段階で侍女のアルレシャを国王が使わされるとなると・・・

森の奥から争い合う音が三人の耳に届く。

シャウラ王女「話は後だ!」

三人は馬に乗ったまま森の中へと駆け出した。

オオワシが一人の男を攻撃している。男は木の棒で必死に防戦するのがやっとで、オオワシを返り討ちすることは出来ないでいる。

シャイン「お前の石をよこせ!メリクさんにはそれが必要なんだよ!」

オオワシの鋭い爪が男の木の棒を払い飛ばすと、男の胸元目掛けてオオワシの鋭い爪が襲いかかる。

男は何処からか取り出した木の棒で、またその攻撃を防いだ。

辺りには木の棒がたくさん落ちており、数時間に渡ってこの争いが続いていたことを物語っていた。

男はだいぶ攻撃されていたようで、体を纏う衣服はズタズタになり傷ついてフラフラとしていた。

これ以上はまずい・・・攻撃を受ければ、男の命は危ない。

アクベンスは馬を駆り男とオオワシの間に割って入った。

鋭い剣を華麗に操り、オオワシの爪の攻撃を受け流した。

オオワシは空高く舞い上がり、体制を整え急降下して男目掛けて鋭い爪を突き立てるが、アクベンスがその攻撃を剣先でいなす。

シャイン「邪魔するな!」

アクベンス「鳥ぶぜいにやらせはしない!」

くそう!空を飛ばれていては、剣も当てられない。

使うしか無いか・・・精霊よ。

シャウラ王女「精霊よ!!」

え?まさか!!

アクベンス「シャウラ王女!お待ちを!」

空中に歪んだ黒い影が発生し、オオワシを飲み込もうとしている。

オオワシは抵抗してバタバタと飛んでいるが、空中に出来たブラックホールに飲み込まれようと前進せず後退していた。

シャイン「なんだ。この力は!お前も運命の石を・・・」

ブラックホールは少しずつ大きくなっていた。

シャウラ王女は、少し苦しそうに馬から崩れ落ちる。

それをアルレシャが馬から飛び降り支えた。

開放されたブラックホールは力を維持しながら、巨大に開いた穴を広げ始めた。

その時、大量の木の棒がブラックホールの中に吸い込まれ、入り口を塞ぐ。木の棒が吸い込まれながら、ブラックホールは少しづつ力を弱め消滅した。

ラム「馬鹿め!こんな所でその力を使いやがって!」

オオワシは吸い込まれず、ブラックホールが消えた瞬間に、その場を飛び去ってはるか遠くの空に一瞬で舞い上がっていった。

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