第す話

「ねぇ、公ちゃん。すうどんってお酢の味しないんだね~」

「は? 当たりめぇだろ。それっだったら名前『お酢うどん』だろ」

「え、じゃあ、すうどんってなんなわけ?」

「は? おめぇ見てわかんないのかよ?」

「え、見たらうどんだってわかるぐらいだけど?」

「マジかよおめぇ素人かよ。『すうどん』は『素うどん』つまり具が入ってねぇありのままの姿ってことだよ」

「え~、うそ~! これ店員さんがつまみ食いして具が載ってないわけじゃないんだね!」

「はぁ? 店員のつまみ食いOKな店なんてあるわけねぇだろ」

「あるよ~! テレビで一流シェフがちょくちょくつまみ食いしてるの見るもん!」

「何言ってんだよ。それは味見だろ」

「公ちゃんこそ何言ってるの!? 味見という名のつまみ食いをつまみ食いと言わずになんというの?」

「だからそれは味見だろ」

「だから~、味見ってつまるところの大義名分でしょ!」

「おめぇ難しい言葉知ってんな。じゃあ、毒味という名の味見はなんだよ」

「それは毒味という名のつまみ食いよ」

「ってことはよ、沙羅魅。おめぇの中では味見も毒味もつまみ食いも全部が異口同音ってことだな」

「そう、それそれ! 異名同音!」

「でも考えてみろよな沙羅魅。つまみ食いは食うのが目的なのがはっきりしてる名詞だけど、味見は味を確認するために食べてんだよ。毒味は毒が入ってないか確かめるために食べてんだよ」

「そう、そういうこと! 結局食べてるってこと!」

「やれやれ、食べ物のことになると食べるがメインになってなんも通じねぇな」

「ちょっと公ちゃん今食事中。お通じの話とかやめてよね」

「......」


「うめぇなうどん」

「うん。うどんの味だけ楽しむっていう貧乏人の気持ちがわかる貧民的な食べ物もたまにはいいね♪」

「貧乏人とかいうなよな。あと庶民的な」

「うん。それそれ、大貧民的なね♪」

「おいおい、おめぇんちは金持ちかもしんねぇけど、オレは庶民派だからな」

「うん。よきにはからっておいて」

「やれやれ」


「で、さっきなんの話してたんだっけ?」

「素うどんは具がないうどんってやつだろ」

「あ~、それそれ。つまり素うどんは手抜きうどんだね」

「まぁ、そうとも言えるな」

「ちょっと~、何その気の無い返事は?」

「は? 別に手抜きはしてねぇぞ」

「あ、もしかして公ちゃん、貧乏ってことが読者にバレて怒ってる?」

「怒ってねぇし! しかも庶民だからな。勝手に貧乏にすんなよな」

「何言ってるの公ちゃん。年収1000万超えなきゃ貧乏みたいなもんじゃん!」

「おいおい、おめぇこそ一般人を蔑んでんじゃねぇよ!」

「さげすんでなんていないもん。沙羅魅は事実を言っただけだよ!」

「やれやれ、これだからお嬢様は困るんだよな」

「もう、お嬢様とか呼んでも恵んであげないんだからね~」

「お嬢様って呼ばれて喜んでんじゃねぇよ。しかも、恵んでもらったことなんてねぇし!」

「だから、恵んであげないって言ってるでしょ~」

「ほんと話が通じねぇな」

「もう。食事中じゃなくてもそういう話するのやめてよね」

「......」





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